日は西に傾き始めていた。

町に入り、思い切り空気を吸い、背を伸ばしてみる。
そして、辺りを見回した。

大きくもなく、小さくもない町。人工の建物や道の中にも自然の色がちらついている。


トラペッタに到着した。


ここに住んでいるというマスター・ライラスを訪ねるためにこの町に寄ったのだ。

トロデ王に命令され、マスターライラスの家を探しはじめた……

とりあえず、エイトの隣をさりげなくキープしつつ、いろいろ聞きまわった。

聞くと、訃報が大体を占めていて、道化師の姿を見たという話を聞くこともあった。

煙が立ち上っている。

「もう、へとへとでガス…姉貴…酒を飲まして欲しいゲス。」

「僕が持ち歩いてるみたいに言うんじゃねーよ、ヤンガス」

既にお疲れモードのヤンガスが何故か僕に酒をせがんだ。


「え、持ってないんでげすか?」

真面目にショックを受けたヤンガスに
「違うから、馬鹿だろ」
とりあえず即答しといた。

ヤンガスとギャーギャーいってると
「あとは…酒場だけか。」
エイトがそう呟いて二歩、下を向いていたのかなんなのか凄い勢いで頭を壁にぶつけていた。

「兄貴!酒場なら俺に任せるでかす!」


一目散にヤンガスが酒場に走っていった

「いっちゃったね…」

「いっちまいやがったよ」

若干のいらつきで言葉遣いがさらに荒くなった。


エイトが「ヤンガス待ってー」と叫んだかと思うと
僕の手を引っ張って、
「ほら付いてこう?」っと
言った。

「…うん」


嬉しくない訳がないんだけど、エイトくんよ

触れてる右手が熱くてたまらない。手汗で引かれてなきゃいいなぁ。

思いながら、引っ張られるがままに酒場に向かった。











酒場につくと、
ヤンガスが今にも人を襲いそうなそんな物凄い形相で近づいてきて、口を開いた。

知っているはずのヤンガスなのに腰が引けた。

しばらくの間があき、ヤンガスが、ゆっくり口を開いた



「………金が欲しいでがす…」

エイトと僕は思わず倒れかけた。

「なんでその顔なんだよ、意味わからねぇ」

ヤンガスはヤンガスだった。馬鹿だった。

「だって酒が飲みたいんでがすー」

酒をせがむヤンガスを無視して

僕はまたエイトのほうに向き直した。

「ねぇ、なまえ。」


エイトの真剣な声に一瞬固まる。


「なに?」




「今までの情報によると、探してるマスター・ライラスはすでに……亡くなっているみたいだね。」

亡くなっていると思いたくなかったけれど、町の人たちの話はどれもそれを認めなくてはいけなくなるような内容だった。

人の「死」というものは、あまりに簡単にやってくるものだが、それは重いものだ。






「そして、あの人が、評判の悪い、占い師ルイネロさんだと思うんだ。」

エイトは、カウンターに座る妙な髪型の人を見た。

町で聞きまわっているときに僕も若干聞いていた
名前までは覚えていなかったが、エイトはそういうところは、かなりまめだ。


「僕がはなしかけようか?」
「いや、俺も一緒にいく。」

「じゃ、あっしは酒でも飲んでるでがす!」


「「だめ。」」


「…………」


「…すいません、お話をうかがいたいので…「まって」

エイトをとめた。

「なんか揉めてるみたいだ。」



「ルイネロさん、もう、やめにしないか?、あんたの当たらない占いなんて酒代の足しにもならないんだ。」


「そんなことはない!」

マスターとルイネロ、二人の言い合いが続く。

「じゃなんでライラスさんを救えなかったんだ!」

「ライラスか…あのジジィとはよく喧嘩したものだな…だが、俺が予言をしたとしても、それが原因でまたなにかが起こったらどうするんだ。」

「ルイネロさん、言ってることがわからないよ。それでもライラスさん一人は救えたんじゃないのかい!?」

「…ん?」

ルイネロさんがこちらに気付くと立ち上がり口を開いた。

「お前、「「大変だ!!!町の中に怪物が!!!!」
いきなり話し掛けられて一歩引いたところだった


青年の声が店内に響いた。
広場に、広場に、と繰り返す彼の息はひどく荒かった。

酒場の人達はすぐに彼についていき、先ほどまで騒がしかった酒場は静まりかえった。

話の途中ですいません、と一言残して僕らも広場に駆け出した。


向かう途中、突然青い顔をしたエイトに止められた。


「あのさ…怪物?」

「…え、ああ……いやまさか…うん、違うよ。」

「……」



もしかして。














***







怪物の正体は

悪い予想が当たって、

トロデ王だった。


「あちゃー…」

「やっぱりか…」

「おっさん大丈夫…じゃないでがすね」

人だかりから一歩離れた場所で止まり少しだけ様子を伺った。

『キャーこっちを見たわ』

『なんておぞましい顔なの!』


それから石が投げられ、罵倒を吐かれ続かれる姿をさすがに黙って見てることができずに、僕が一歩踏み出した時だった。



ミーティア姫の声が響いた。

いつもの穏やかな目つきではなく、鋭い目つきで周りを睨みつけた。

その雰囲気に圧されたのか周りは唖然となった。

同時に僕ら三人は村人を掻き分け、馬車を引き連れて村の外に出た

その間にまた村人達は我に帰ったように騒ぎだした。

『化け物は出ていけー!!!!』

その時、僕が腕を振り上げようとしたが、エイトがその腕を掴んだ
「ダメだなまえ落ち着いて。」

「……うん。」











町の外に出ると
相当怒っている様子のトロデ王に今日の情報を話すことした。

「やれやれひどいめにあったわい
いったい、わしをだれだとおもっているのじゃ!?」
最近の若者は……
ぶつぶつと言い足りないかのように付け足した。

「あのトロデ王…マスターライラスの事なんですが。」
僕がここまでいうとエイトが
「亡くなっていました。」と残念そうに口を開いた。

「なんとすでになくなっていたじゃとっ!?
むむむむむ……。ふむ 亡くなってしまったものはしかたないの………」

「すみません。」

申し訳なさそうにエイトは頭を下げた。

「エイトは謝らなくてもいいぞ………もともと われらがおっているのは
わしと姫をこのような姿にかえた憎きドルマゲスじゃ!」

ヤンガスが大きく頷く。

「マスター・ライラスにきけば、やつのことがなにかわかるやも知れぬとそうおもったのじゃが……やはりドルマゲスの行方は、わしらが自力でさがすしかないようじゃなではいくとするか。」

「はい。いきましょう。」

「ライラスがいない今 こんな町に長居は無用じゃ!」

「お待ち下さい!」

その声に反射的に振り返り、足を止めた

「お待ちください……」

声の主は私と同じくらいの女の子だった。

「何かご用でしょうか?」とエイトが尋ねると

「じつはあなた方にお願いがあってこうして駆け付けてきました」

女の子がそう言った後、すぐにトロデ王は不思議そうに女の子に尋ねた

「お嬢さんあんたこのわしを見てもこわくないのかね?」

そして、女の子は話し出した。

「夢をみました人でも魔物でもない者がやがて 町をおとずれる……その者が そなたの願いをかなえられるであろう……と」

「人でも魔物でもない!?それは わしのことが?」
ショッキを受けたトロデ王がしばし固まるが
隣で大爆笑するヤンガスに気付きにらみつけた。

ヤンガスは、鼻をほじりながら他所を向き下手なごまかしをした。

相変わらずな二人だな………

「あっ ごめんなさいっ。」

女の子が謝るともう一度トロデ王は彼女のほうへ視線を戻した。

「まぁよいわみれば我が娘 ミーティアとおなじような年頃。そなた わしらのことを夢に見たと申すか?よくわからぬ話じゃが……。」

「そういえば、君名前はなんていうの?」

僕は尋ねた。

「あ、申し遅れました。わたしは占い師ルイネロの娘とユリマです。どうか 私の家にきてくれませんか?くわしいはなしはそこで町の奥の井戸の前が私の家です。まってますからきっと来て下さいね!」


それだけ言うと町の中に入って行った



トロデ王に行って来いと言われたので、町へもう一度入ることにした。













街に入ると
さっきの騒がしさもなく
静かになっていた。

エイトは眠いのか、よたよた歩いている

気付けばもう深夜と呼べる時刻である

「なまえー何処いけばいいんらっけぇ…?」

眠くて呂律の回らないエイトが聞いてきた

「町の奥の井戸の前が私の家ですって言ってたよ?」
わかった…と返事をしたと思ったら
バタンっと倒れた。

「兄貴ィ!!!!!!」

あわててヤンガスと駆け寄り起き上がらせようとすると

手を貸さずともむくりと立ち上がった。

「今俺寝てた?」

倒れといてそれかよ、心配させんなよな全く。

「兄貴おぶりやしょうか?」

「いい、歩く…」

よたよた、ふらふらしてるので
僕が手をつかんだ。

「危ないから、手繋いで。」
僕は言ったぞ、「手繋いで」って、言っちゃったぜ!!

少しだけルンルン気分でいる私をヤンガスがうらやましそうに見てきた。

「ヤンガスとやると気持ち悪いだろ、エイトが」

「それはヤンガス差別でがす!!!!姉貴、世界中のあっしと名前が同じ奴に謝って「今何時か考えろやコラァ。大きい声出すんじゃねぇ!」

「二人とも喧嘩はやめようよー」
とフニャフニャとエイトがなだめた

ヤンガスと睨み合いながらも、エイトの手を握ったまま(重要)ユリマの家についた。

エイトは相変わらず寝てるんだか起きてるんだかわからない顔だった。

名残惜しい気持ちを捨て、手を離して家をノックした、が返事はなかった。、
鍵が開いていたのでゆっくりと中に入った。

中に入ると大きな水晶玉のようなものが置かれたテーブルに俯せてユリマが寝息を立てていた。



ユリマを起こそうと話しかけると

とろんとした目でこっちをみたかとおもうとはっとして

「あ!本当に来てくれたんですね!
なのに私ったらうたた寝なんかしててごめんなさい。」

慌てて立ち上がりスカートを払うと
真剣な眼差しで一度こちらを向き水晶玉に目をやった。

「実は頼みというのはこの水晶玉のことなんです。」

いきなりかあ…と少しだけ驚いてしまった。
そんな私を察したのかユリマは一度話を止めて申し訳なさそうにこちらを見た。

「……て もしかして話が急過ぎましたか?もっと頭から話したほうがいいですか?」

「お願いします。」

なかなか、マイペースなんだろうな。
世の中のひとりっこってこんなかんじなのかな。


「そうですよねでは聞いてください。
かつて私の父ルイネロはものすごく高名な占い師でした。どんな捜しものも、尋ね人もルイネロにはわからぬことはないと…。しかしある日をさかいにその占いはまったく当たらなくなってしまったのです。多分、それは この水晶がただのガラス玉に…」


エイトはいつの間にかちゃんと起きていて話を聞いて考えこんでいる。

不意に立て付けの悪い扉が開く音がしたので、説明の途中だったが、全員の目が音のほうに向いた。


「何を話しているんだユリマ !?その水晶玉に さわるなとあれほど何度も…!」

こっちに気付いたルイネロに目を合わせた。

「ん?あんた達はたしか……酒場であった人だな?……まぁともかくだ!わしは別に困っていない。娘になにを頼まれたかしらんが余計なお世話にだぞ!」

そう、ぴしゃりと言い捨てた。

「さてわしはもう寝るユリマ!客人には 早々におひきとり願うんだぞ。」
ふて腐れたように二階へ行ってしまった。


ルイネロの瞳に一瞬少し迷いが見えたような気がした。

本気でいっているのだろうか?





「ごめんなさいあんな父で……。でも! あんなこと言っても占いが当たらなくなって 一番悩んでいるのは父本人だと思います。だからお願いです。父本来の力が発揮出来るほどの大きな水晶を見つけて来てくれませんか?」

「いや、それはちょっと…」
エイトが答えたので僕は、「はぁ?!」っと声をあげて、エイトのほうをみた。

「そうですよね、いきなりそんなこと頼まれても困りますよね。ごめんなさい、夢のお告げなんてやっぱりただの夢だったんです。」

ユリマは残念そうに俯いた。

僕はエイトを角に連れていき
「なんで断ったんだァ!!!!」
「…だって、あのお父さんにもってきても、怒りそうだし…」
「子供か!!!」
「姉貴ー兄貴を責めないで欲しいでがすー」
「るせぇ!!!!」

「ユリマちゃんー!!!」
ユリマちゃんは驚いたようにこっちを向いた
「は、はい」
「さっきの話しだけどさ。いいよ。」

「え、もしかして私の願いを引き受けてくれるんですか?」

「もちろん」

「本当ですか!?やっぱり夢のお告げ通りだわ!そのお告げによると町の南にある大きな滝の下の洞窟に水晶が眠っているそうです。こんなことがわかるなんて、私はやっぱり偉大なるルイネロの娘ですよねっ。」

嬉しそうなユリマちゃんの顔をみて
こっちもなんだか嬉しくなった。


でも、滝ってことは
僕の嫌いな水があるのか…………。

ちょっと、引き受けたことを後悔してしまった。












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