「ヤンガス……聞いてもいいかな」

「なんでガス?」

本当に油断していた。
何故ヤンガスに先頭を任せたのか。
いや、どうして俺も止めなかったか。


「手前に一つ村、なかったっけ。」

確かに見た。でもヤンガスがあまりに先に進むから、そっちのけで追いかけてしまったのだ。

どうりで魔物も強いんだ。
薬草が底尽きそうになっている。


ここは港町ポルトリンク。


−−さすがに彼女も一人でこんな所まで来ないだろう。

男二人でやっとこさ、来れる場所なのに。
一人で来るなんて
じゃじゃ馬娘はどれだけ馬鹿力、いや男らしいのだ。

まぁ、たしかに城にいた時は男より男らしかったしな……。


「……ヤンガス、なまえがここにいると思う?」


ヤンガスは首を傾げて
「姉貴一人でここに来れる……来れるガス」

「ヤンガス、仮にもなまえは女の子なんだけど………。」


ヤンガスの中のなまえ(=姉貴)はドラキー瞬殺の時から最強になっているらしい。

確かにあれはびっくりしたけど、あれは彼女の寝ぼけパワーというものだからな。


「とりあえず、薬草だけは買い溜めしておいて、村に戻るにしないか?」


正直、村に戻るまでが辛いのだが
がんばるしかないだろう。


それに、ここまで来る間に倒した魔物から結構Gが貯まっているし
武器も新調しよう。

ヤンガスには原始的だけど今よりは攻撃力が上がるであろう 『石のオノ』を買えるだけのお金を渡し、残りのお金で買えるだけの薬草を買った。

「兄貴はヤリとか買わなくていいんでゲス?」

「いいよ、お金ないし。」


自分のものにはあんまりお金をかけたくない。

銅の剣でもまだ、通用するし「いいかなぁ」って思ってる。

なまえが新しく買ったあとのお古でも全然構わないし

「そうでがすか…兄貴がそういうなら……。」


そして、ポルトリンクから
途中でみた村へ向かい始めた。




「ちと、エイト。」
街から出ると、トロデ王に話かけられた。

「なんでしょうか?」
機械的に返事を返した。

「いらないものをいるものに変えられる道具がほしいとは思わんか?」

−−−何かと思えばそんな質問ですか王。

「当たりまえじゃないですか。いらないものがいるものになるなんて素晴らしいですよ。」

(いろいろ節約にもなるし。)

思考が主婦なのは気にせず。

なんだかわからない馬の糞だとか、袋に入れておくだけですれ違いざまに嫌な顔をされる。
それが違う臭いとか全く違うものになるなら今すぐに欲しい。


「じゃろう!!!」

なんだかよくわからないが「頑張るか!」などと気合いを入れてるトロデ王にヤンガスが鼻糞をなげている

いつも通りの風景のはずなのに

なまえがただいない。


無理矢理歩幅を合わせて転びそうに歩くなまえがいない。


早く迎えに行かなきゃ。








****






「…まだ今日は明るい、お前が行きたがっていたリーザス塔に案内したいと思う。」


あぁ、やっといけるのか。

あの塔へ


「うん。行きたい。」

「……とりあえず準備しよう」

サーベルトが、そういって僕に剣やら鎧やら盾やらくれるのだが、結構重装備になってしまっている。

「ねぇ、こんなに無くても僕多分平気なんだけど。」

サーベルトがぶんぶん首を振る。

「いいや、だめだな。女が身体に傷つけたら」

じゃあ、重い鎧装備させていいのかよ、と思ったけど口には出さなかった。

「サーベルト兄さん、もう行くの?」

ゼシカが部屋から出て来た。

クルッと目線をこっちにむけたと思うと凄い勢いで抱きしめられた。

「……なまえ、いつでも来てよ?」

「ああ、来るさ。」

抱きしめ返すとさらに強く抱きしめられた

「おいゼシカ、なまえが窒息する」

「あっごめんなまえ!」
ゼシカが慌てるので

「大丈夫だよ」

ホントは、僕よりゼシカは背が高いから喉のあたりに胸があって苦しかった。

ゼシカと別れて屋敷から出た。





「あ、そういえば、あのドレスはゼシカがなまえにくれるってよ」

「え、凄い嬉しいんだけど。」

ゼシカありがとうっ!
ニ叫んでおいた。

リーザス村、凄い世話になった。

この村を離れて塔に行く、その後はとなりの港町にそのまま向かうつもりだ



村の外に出てから、思い切り息を吸った。

身体を伸ばして、走りだす。
リーザス塔は見えている。

「あんまり急いでも塔には像ぐらいしかないぞ?」
サーベルトは言ったが、

「だって早く行きたい。」

サーベルトの顔は緩んだ。
「……じゃあ急ぐぞ!」

いきなり速度を帰るサーベルトに慌ててついて行った。




リーザス塔。
草が壁に張り付いていて、建物の古さが感じられた。
見上げて見た塔は堂々としている。

サーベルトは不思議な顔をした。


「どうかしたの?」

「あぁ、村の人間しか開け方を知らないはずの塔の入口が開いているんだ。」

「村の人がはいったんじゃない?」

「しかし、今やここは魔物の住み処になっている。わざわざそれを知る村人がこの塔に入るとは思えない。」


怪しい。


「取りあえず入ってみようぜ。村人が本当にいて襲われていたら困るし。」
そうだな、
サーベルトが同意したので、塔に入ることにした。


「なぁ、なまえ。」
「なんだよ。」


一生懸命に地図を見る僕にサーベルトが話しかけて来た。


「……地図なんて見なくても、俺の頭に道は入っているんだぞ…
それにお前、地図が逆さだ…」

そう言われて、ハッとした。

「………僕ってホント抜けてる」

サーベルトが笑いを堪えているのがわかる。


「笑ったら1000Gだからな。」

サーベルトは、完全に吹いて笑いはじめた。


「ひどいな、オイ」

悪い、といいながらまだ笑うサーベルト。

「笑うなってば!本当1000G取るぞ!」

悪い、といいながらまだ笑うサーベルト。

「笑うなってば!本当1000G取るぞ!」

「ハイハイッ」

まだ笑いそうになるサーベルト、笑い過ぎて目に涙を浮かべている。


「……もう口聞かないぞこのやろー」


「道案内するから許せよなー」


そういって手を引かれてどんどん塔を登った




***




「村の人間は居ないな…」

結構昇ってきたけれど、人等一人も見なかった。

「……像の眼を狙う盗賊か?」

「何故、像の眼…?

「像の眼に世界でも有名かつ、貴重な赤い色の宝石が埋め込まれているからさ。」

お金よりも宝玉のほうが比べ物にならないほど価値があるんだという
回転する壁をいじりながらサーベルトはなまえに説明した。


「なまえ、あと一回上に上がればこの塔の最上階つまり、像がある」

道順が分かっている人と入ると、こんなに早くつくものなのか!

「私の見たいものはその『像』だとおもう。」

早く見たい。


「じゃあ登るぞ」

駆け足で階段に向かうサーベルトの服の裾を掴んで先に行くのを止めた。

「……ん?」

「ごめん、わがままに付き合って貰って……本当にありがとう。」

「……いいんだ。見回りのついでになってちょうど良かった。」

「……世話になってばっかりで、本当悪い。」

サーベルトの裾をギュッと強く掴むと、ゆっくりと腕が背中と腰にまわり
強く抱きしめられた。

「…このままどこかへ連れ去って隠してしまいたい。」

「……馬鹿」

僕の頭を撫でて、もう一度抱きしめた。

「……おまえが抱きしめるとき、尻触られそうなんだけど」

「わざと。」

「おいっ変態」

腕の束縛から抜けようとがんばるが、なかなか抜けない。

「……また来いよ。」

「寂しくなったら、絶対サーベルトとゼシカに会いに来るよ。」

サーベルトは嬉しそうに笑っている。

「………あと3pバストアップしたらもっと抱きしめ心地がいいのに。」

「……おまえに抱きしめられるまえにゼシカに抱きしめてもらうし」


サーベルトの笑い声が響いて反響していた。


「じゃあ、いくぞ!」

「おうっ!」







***



天気が悪い。

さっきまでの晴天はどこへ行ったのか。



−−−塔の頂上。


果てしなく嫌な空気が流れていた。

吐き気までしてきた。

「誰もいないな……」

「……像は見れたし、早く帰ろうか。ここ、気持ち悪い。」

あれだけ来たかった場所なのに


「………そうだな、今日は居心地が悪い。戻るか」

サーベルトが後ろを振り返った瞬間だった。







「……悲しいなぁ。」






独特の響きのある低音に背筋が凍る。


「だ、誰だ貴様は!!」

サーベルトが直ぐに反応して振り返り、声をあげた。

僕もまた振り返った




「悲しいなぁ」




−−−−−道化師の姿。
何故?


いつここに来た?


どうしてそこにいる?



「なんだとっ!?
質問に答えろ!貴様は誰だ!ここで何をしている!」



剣に手をかけるサーベルト。

僕も剣に手をつける。
汗が落ちる。
吐き気が激しくなる。





「我が名はドルマゲス、ここで人生のはかなさについて考えていた。」



「ふざけるな!」



サーベルトは果敢にドルマゲスに立ち向かおうとする
だが、剣を抜こうとしているのに
鞘と刃がくっついてしまったように抜けない。




「…!くっ、剣が、剣が抜けん!」




余裕の笑顔を浮かべる道化師。



力を込めても、鞘から抜けない。



(抜けて、お願いだから。早く!!!)




「悲しいなぁ、私は君の勇ましさにふれるほど
悲しくなる。」



僕はそこ居ないような錯覚。

ドルマゲスはサーベルトしか見ていない。

忌ま忌ましき魔法。
ついに身体さえ動かなくなる。



「ぐわっ!!貴様 な、なにをした!身体が動かん。己、ドルマゲスと言ったな!その名前 決して忘れんぞ」




「ほぉ…?私の名前を忘れずにいてくれるというのか。なんと喜ばしいことだろう。
わたしこそ、忘れはしない君の名はたった今よりこの魂に 永遠に焼き付くことになる。さぁ、もう、これ以上悲しませないでくれ……」



ドルマゲスがゆっくりとサーベルトに近付き、抱きしめた。

ビリビリと殺意を感じた。

「くっ……きっ貴様ぁぁぁ!!!」

抵抗することもできない

殺さないで、サーベルトを
サーベルトの代わりに僕を殺したって構わない。

だから、お願い。


「やめてくれよ!!!」


声は空しく響いただけだった。

長い杖が、サーベルトを貫いた

「君との 出会い 語らい そのすべてを 我が人生の誇りに思おう。君の死は無駄にはしないよ……。」

倒れるサーベルトの元へ反射的に動いた。

血が流れて、腿に垂れてくる。


「……くっくっくっ…」


「あーーひゃひゃひゃ!!!!!!!!」


狂ったように笑うドルマゲス。

笑いが止まったと思うと

サーベルトを抱える僕に眼を向けた。


「……おや、もう一人いたんですね……悲しいなぁ…関係のない貴女を殺さなくてはならないなんて。………コレを見て生きてもらっては困るんですよ」

眼を大きく見開いたあと



ドルマゲスは杖をまっすぐ投げた


眼をつぶったその時


「あ゙あ゙あ゙ああああぁぁぁぁぁあ!!!!!」


耳に痛いほどの男の悲鳴。


眼をゆっくりと開くと

杖は落ち、

ドルマゲスは眼を押さえ苦しんでいる。

−−−−何があった。


「小娘がァァァァァァ!!!!!!!!」


怒り狂うドルマゲス。

振りかぶり襲われそうになった瞬間

知らない呪文を自分の口が唱える。

「−−−−−!」

杖とドルマゲスが眼の前から消えた。


「………なまえ…。」

サーベルトが口を開いた。

「サーベルト!!!!!」

「−−−最後、お前に…抱かれて…死ぬなんてな…………」

呼吸がおかしいサーベルトにひたすらにホイミをかけた

「…死ぬな、サーベルト!!!!」

ホイミをかけてもかからない。

「−−−−………ゼシカを頼んだ。」

「嫌だ、サーベルト、死ぬな…死ぬなよ…!!!」




微かに僕を抱きしめた腕。


「………なまえ…さよなら……ありがと」


そう口にすると、サーベルトの呼吸が止まった。



「……うぅ、サーベルト…サーベルトぉ…」


とめどなくながれる涙。


掠れる泣き声





声も、顔も、腕も


サーベルトは話さない。


サーベルトは笑わない


サーベルトは抱きしめない


ただ、冷たい血が流れているだけ。


冷たくなる彼がいるだけ












自分しか救えなかった、僕が泣いているだけ。









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