水中の攻防戦

―――コウキ

誰か私を呼んでいる。
それは本当に私の名なのだろうか。

―――起きろ

あれは幼い頃、孤児院にいたリドルだったのだろうか。彼は死を恐れていた?母親の件でもそうだ。もしあの少女との間柄が親しい物だったとしたら、彼の心の闇は更に深まってしまったのではないだろうか。

―――おい

「コウキ!」
「っ!」
「大丈夫か!?」
「シ、シリウス…?」
「はあ…無事だな」
「え?」

周りを見渡すと、そこはハグリッドの小屋だった。
私は確かあの池に引き摺り込まれて、息が出来なくなって…?

「シリウスおじさん!」
「ああ、ハリー。どうもな」
「コウキ!大丈夫!?」
「うん、大丈夫。どうしてシリウスがここに?というか私はどうなったの?」
「話は後だ。とにかく着替えろ」
「第2の課題まであと20分だよ!」
「え!?」

城の方から走って来たハリーの両手には、私の対抗試合用の制服。森の木の陰で着替え、彼等と一緒に走って湖に向かった。

「で、何があったんだ?」
「えーと…鰓昆布を採りに行ったら、何かに引っ張られて池に落ちて…」
「僕に逃げろって言った直後に、池から出てきた黒い布みたいのに包まれて落ちたんだ」
「俺はハグリッドの代わりに森の見回りをしていた所だった」
「それで、僕の声が聞こえたらしくて助けにきてくれたんだよ」
「そうだったんだ…ありがとうね、シリウス」

随分と寝転けていたらしい。まだ脳裏に浮かぶあの光景は、一瞬の出来事だったのに。

「いや。お前こそ、何かあったのか?」
「え?どうして?」
「顔に書いてある」
「そ、そんな」
「言いたくないならいいけどな、お前は常に面倒事を抱えてるんだ。あんまり無理するなよ」
「ん、ありがと」

あれは夢だったのだろうか。
しかし、最後私はリドルに貫かれた。血塗られたその手で。まさかあれが…血の盃?


湖の傍に着くと、既に観客席は満員。
他の代表選手は落ちついた様子だった。

「ハリー、頑張ろうね」
「うん、コウキも!」

何とか身を整え、スタート位置に着く。バグマンの声が響き、他の選手達が一斉に湖に飛び込んだ。

私もまず湖に飛び込み、水面が遠くなる程潜ってから人魚へと変身した。耳の裏辺りに鰓が生え、そこで呼吸が出来る。陸地ではこの鰓が閉じ、肺呼吸になるのだから凄い構造だ。

しばらく奥へ奥へと進んで行った先に、あの卵から聞こえた水中人の歌が聞こえてきた。特に何にも害される事なくここへ辿り着いたのだが、脳裏を嫌な予感が走る。引き寄せられるかのように、この方向に何かを感じていたのだ。

『探す時間は 一時間
取り返すべし 大切なもの…』

歌が聞こえてくる先には、水中人の住居の群れが見える。その住居の一角に大勢の水中人が集中し、歌を歌っている張本人達がいる場所を見つけた。
真中には石像が立っていて、その下に4人の人質と―――

「ハリー!」
「コウキ!他の人を見なかった!?」
「いいえ、見てないわ!はやく、ロンを―――」

思わず変身を解いてしまいそうになる程驚いた。ロンとハーマイオニーの間に縛り付けられている人物は…リーマスだ。

どうしてリーマスが。教員なのに、いや、後見人だけど、アルバスはどうやって説明するつもりなのか。

「コウキ、とりあえず助ける事を優先しよう」
「それも、そうね」
「ディフェンド!」

どうにか縄部分だけを裂き、確りとリーマスの体を掴んだ。

「他の人は…」
「クラムは来るはず、でもデラクールは…」
「僕、あの子も助ける」
「それなら、先にロンを地上にあげた方がいい。私がここに残るから」
「でも、そしたら君の順位が!」
「いいのハリー、私は貴方が一番になって欲しいもの。それに、リーマスは大人だけど、ロンは子供だから体力の問題もある」
「コウキ…」
「クラムたちが着たら、私が誘導するから、ね?」
「…わかった、すぐ戻ってくるから!」

ハリーが水面へ上がってすぐ、クラムがハーマイオニーを連れて上がって行った。しかし、デラクールが来る様子は無い。やはり、途中で水魔にやられてしまったのだろうか。

「リーマス…」

ぐったりと四肢を揺らげ、顔色の悪い姿にぐっと胸が押し潰される。こんな姿を見せられるだけで、私には拷問だ。

「コウキ!」
「ハリー、よかった、間に合ったね」

ハリーがデラクールの妹に手をかけた瞬間、水中人がそれを阻止しようとハリーを抑え込む。直ぐに私は杖を水中人に向けた。ハリーも同じようにしている。

「っ…ディフェンド!さあ、ハリー、先に行って!鰓昆布の効力が切れる!」
「わかった、君も、すぐ!」
「うん―――レラシオ!」

水中人に当てないように魔法を唱えると、驚いて散り散りになった。暫くは追って来ないだろう。

「っ―――」

私もかなり力を消費しているようだ。大人のリーマスの重みに加え、服の重みまでかかってかなり重たい。畜生、こういう時はローブぐらい脱いでおいて欲しかった。

先を行くハリーを見上げると、殆ど人に戻りかけている。それと同時に、明るい水面も見えた。
あと少し―――

「コウキ!」

確かに聞こえた、シリウスの声だ。スタンドのみんなの声も聞こえる。良かった、戻って来れたのだ。

「コウキ」
「っ…リーマス…」
「よくやったね、有難う」

安心か、力を使い果たしたのか、体も元に戻りぐったりとしたところをリーマスに抱き留められ、岸へと連れて行ってもらった。

「もう動けない…」
「お疲れ様、さあ、マダムが世話してくれる」

マダムは他の代表選手や人質だった人を厚い毛布にくるめ、暖かな飲み物を渡している。私も毛布に包まれ、ハリーの近くに転がった。

「ありがとう!あなた達が、ガブリエルを助けてくれました!」
「いや…僕は」
「あなたも、本当に、本当に…」
「いえそんな…」

デラクールがハリーにキスをして、私をぎゅっと抱きしめた。この子、何気にいい人なんだよね。

「ていうかリーマス…じゃなかった、ルーピン先生?」
「なんだい?」
「説明は?」
「ある程度の人にはされているようだけど、暫くは質問攻めかもね」
「げろ…」

水中人と丁度話し終わったアルバスを見ると、こちらに向かってウインクをしていた。そして、近付いて来たと思ったら一言。

「これで、動きやすくなるじゃろ?」
「…こ、この親馬鹿…」

何はともあれ無事に終わって良かった。もうぴくりとも体は動かない。とにかく疲れた。

「コウキ・ダンブルドアは、制限時間を大きくオーバーしていましたが、水中人の長の報告によると、ポッター、ダンブルドアの順で始まってすぐに人質に到着。人質全員の安全の為にポッターを先に地上へ送り、水中に残る決意をしたとの事。そして、二人で残った人質までもを連れ、ゴールしたのです!」
「君らしいね」
「どう致しまして」

リーマスは転がる私の頭を優しく撫でる。
本当は誰よりも先に助かろうとして欲しいのだと思う。だが、やはり私が私である限りそうは出来ない
君らしいとは、ある意味リーマス自身が言い聞かせた言葉だったのかもしれない。
ハーマイオニーもロンも複雑な表情で笑っていた。

「このことを含めた協議の結果、ハリー・ポッター、50点!コウキ・ダンブルドア、45点です!」
「ハリー!コウキ!」
「やったわね!」

逃した5点は、クリスマスパーティの時にカルカロフの機嫌を取らなかったせいだろう。ちっと舌打ちするが、得点は上々だ。

「第3の課題は、6月24日の夕方に行われます!」

ついに、来る。
あの―――最終課題が。

今は、今だけは、ゆっくりと体を休めたい。自分の能力を上げる事と、ヴォルデモートに聞きたい事を整理するのは、明日からでいいよね。

「コウキ、歩けるかい?」
「動けない…力使い果たした…」
「前回は気を失っていたからね、起きていられるって事は、成長したって事だよ」
「そうだといいな…ごめん、本当に動けないや」
「おつかれさま。本当に、よくやったよ、コウキ」

マダムが代表選手と人質を引率し城へと歩き出した後ろで、私はリーマスに抱き抱えられ城へと向かった。

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