全てがあかされ

―――今日、バックビークが処刑される。

その報告を聞き、いてもたってもいられなった私はハリー達と共に透明マントに隠れ、ハグリッドの元へ向かった。
最近のハーマイオニーはおかしい、とロンが血相を変えていうものだから、思わず吹き出してしまった。

「ハグリッド、僕たちだよ、中に入れて」
「来ちゃなんねぇと言っただろう!」

そう言いながらも、ハグリッドは茫然自失に陥っていた。

「コウキまで、お前さん、大丈夫なのか?」
「私よりハグリッドの方が酷い状態よ。落ちついて、ね?」
「ねえ、誰でもいい、なんでもいいから、出来る事はないの?」
「無理だ…ダンブルドアは…努力なさった。しかし、ルシウス・マルフォイが委員会を脅したんだ…」
「なんだって…」

どうしようも無いという事実に、ただ呆然とするしかない私達は、過ぎ行く時間を恨む事しか出来ない。下手に動けばハグリッドの立場が悪くなってしまう。

「おまえさん達は城へ戻るんだ―――「ロン!信じられない…スキャバーズよ!」
「何だって!?」

ハグリッドの戸棚を掻き回していたハーマイオニーが、ミルク瓶の中でうずくまるスキャバーズを見つけた。その姿を見たとき、脳を小突かれた様な奇妙な感覚に襲われた。

「スキャバーズって、クルックシャンクスに食べられたんじゃなかったっけ…?」
「こんなところでいったい何をしていたんだ!」
「静かに!連中が来おった…裏口から逃がしてやる、さあ、行くんだ!」
「ハグリッド!でも…」

私たちはマントを被りながらハグリッドに押され、渋りながら外に出た時、かぼちゃ畑に繋がれているバックビークが視界に入った。

「急ぐんだ、面倒なことにはしたくねぇ」
「ハグリッド…」

バタンと裏口のドアが閉められ、立ち止まっていた私達はすぐにハグリッドの小屋を離れた。

「急ごう…」
「耐えられないわ…とっても…」

逃げるように足を速めたが、斧の振り下ろされる音は嫌と言うほど響き渡った。

「ハーマイオニー、大丈夫?」
「信じられない…やってしまったんだわ…」

ハーマイオニーがよろめいた。ハリーとロンは立ち尽くし、私もハーマイオニーを抱き締めただ呆然と小屋を眺めた。
荒々しく、吠えるようなハグリッドの声が聞こえた。

「ハグリッド…」
「駄目だ、ハリー!」
「私達が行った事がばれたら、ハグリッドの立場は更に悪い事になってしまう」
「…行こう」

4人とも無言で広い校庭まで出てきた。
私はこんなに無力だったのか。命一つ救えず、自身の面倒も見る事が出来ない。
あの日から、私が起きている時間にルーピン先生が医務室にやって来る事は無かった。あんな事を言ってしまった手前、謝りたくても中々足が向かないのだ。
だが、寝ている遅い時間や早朝にお見舞いに来てくれている事を、今日の朝マダムが教えてくれた。
私の発言が先生の心に秘めていた物を掻き回してしまったのだ、向き合わなくてはならない。

そんな事を考えていると、隣にいたロンのポケットでスキャバーズが狂ったようにもがき、暴れているのが見えた。
はっと目線をあげると、クルックシャンクスが地を這うようにこちらへゆっくりと近づいてくるところだった。

「だめよ、クルックシャンクス、あっちへ行きなさい!」
「まずい!」
「スキャバーズ!」

スキャバーズはロンの手から逃れ、地面に落ち、颯爽とその場から逃げ出した。
クルックシャンクスはその後を追い、その後ろをマントを脱ぎ捨てたロンが走る。

「ロン!追いかけなきゃ!」

3人で顔を見合わせて追い駆ける。私は一足遅れる事になったが、やっとの事でロンに追いついた時、その手中にはスキャバーズが収まっていた。

「いけない、ダンブルドアたちが戻ってくるわ、隠れなきゃ―――」

一瞬、何が起こったかわからない程の衝撃を受けた。
痛みに耐え目を開けると、吹っ飛んだらしいハリーの下敷きになっていた。ハリーが吹っ飛んだ原因を調べようと頭を持ち上げた先に、一匹の犬が見えた。
―――シリウス!

「わあああ!」
「ロン!?」

ハリーを起こしてから声のした方を見ると、ロンが犬に腕をばっくり食らわれ、引きずられている所だった。
追い討ちを掛けるように今度は後ろからドッと何かがぶつかる音と、ルーモスを唱える声が聞こえた。

自らもルーモスを唱え、辺りを見回すとそこは、暴れ柳の真下―――

「コウキ!」

ブンという豪快な音と共に枝が降り下ろされ、私の頭に直撃した。

「ハ、リー…!」

どくどくと頭から血を流れ出すのを感じながらも、意識が飛ぶのを堪え、次の攻撃に備える。

「クルックシャンクス!?どうしてあの子…」

ハーマイオニーが肩から血を流しながら、私の体を支えてくれた。ハーマイオニーの視線を追うと、クルックシャンクスが暴れ柳の幹の節に足を乗せている。

その瞬間、暴れ柳の動きが止まった、が。
最後の一振りであった枝が、私とハリーに直撃する動きがスローモーションで再生される。それが最後の記憶となった。



―――…



暴れ柳の一振りを食らったコウキは、気を失ってしまったのか体をぐったりとその場に落ちた。

「コウキ!」
「暴れ柳が動き出す前に行こう、コウキは僕が背負うから、君は杖を出して…」
「ええ…」

幹の穴からすべり降りた先は長いトンネルになっていて、そのまた先には、ぼんやりと光が見えた。
照らされたそこは、室内のようだ。至るところがボロボロで、まるで何かが暴れた後のような部屋だ。

「ここ…叫びの屋敷じゃない…?」
「あ、ロン!」
「大丈夫?犬はどこ?」
「犬じゃない―――」

ハリーとハーマイオニーが振り向いた先には、汚れきった髪が垂れ、やせ細りまるでドクロのような
―――シリウス・ブラックがいた。



―――…



真っ白な世界、穢れを知らない清らかな場所。
その中にポツリと色のある私がいた。

「ここは…?私は…リトルハングルトンにいたはずじゃ…」

そうだ、私はリトルハングルトンでヴォルデモートと対決をしていたのだ。そして…

―――アバダ ケダブラ

私は死んだ?
結局、何も出来ないまま。

「皆…リーマス…」

違う、私は死んだのでは無い。
ヴォルデモートの唱えた死の呪文は、私の魂を亡きものにしたのでは無く、肉体と分離させただけに留まった。
居場所を無くした私の魂は、あの暗い時空の間を漂っていたはずだ。

しかし―――…
私は、今まで違う場所にいた気がする

記憶が、曖昧に…思い出が、失われて―――



『コウキ…』

『僕は君が好きなんだ』

『何言ってるの、友達じゃない』

『おい…!』

『行くよ、スネイプ!』

『コウキ―――!』


どうしてこんな大切な記憶を無くしていたのだろう。私はまた、この世界に戻る事を願ったのではなかったのか。
リーマスに、皆に、会うために…



―――…



「エクスペリアームス!」

ハリーの杖が宙を飛び、ハーマイオニーが持っていた杖も、リーマスが手中にしていた。
部屋の真中には、シリウスが倒れている。

―――ここは、ハリー達の時代。

魂だけになった私は、この世界で生きるための傀儡を作ったのだ。かつて、ヴォルデモートがやったように。
誰かの声に導かれ、置いてきた友人を想い、私は自分を手に入れたはずだった。
だが、ヴォルデモートに力を取られた事が原因だったのか力が足りず、元の歳相応な傀儡は作れ無かった。そのまま、私の魂は記憶を遡ってしまい…

―――全て思い出した。

皆は、まだ私が目を覚ましている事に気が付いていないようだ。

「シリウス、あいつは?」

ハリー達は、リーマスが何を言っているか理解していないようだった。
リーマスがここにいるということは、後少しでセブルスが来るはず…どうにかして、ピーターを逃がさないようにしなければ。

「なんてことなの!」

ハーマイオニーが叫んだ。

「先生は、グルだったの…私、隠してたのに…先生のために…!」
「ハーマイオニー、話を聞いてくれ!」
「僕は、先生を信じていたのに、ブラックの…仲間だったんだ!」
「違う、この12年間、私はシリウスの友では無かった、しかし…今は違う、話を聞いてくれ」
「だめ!ハリー、騙されちゃだめ!この人は…狼人間なの!」

全ての視線が、リーマスに集まった。
タイミングなんて見計らわず、今すぐ抱き締めたい。
今私が取るべき最善の行動はどれ?

「先生は…ずっとこいつの手引きをしていたんだ…裏切ったんだ!!」
「違う、説明するから、ほら―――」

リーマスは、全員の手元に杖を返した。皆呆気にとられ、しかし自分の杖をしっかり握った。

「…ハリー」
「コウキ!」
「…っ」
「駄目よコウキ、先生は…」
「大丈夫、今、少しだけ聞いていたから」

リーマスは寂しそうに私を見た。リーマスは、私に気付いていたのだろう。熱を出し倒れた時、消える直前の私と重ねていたはずだ。
だが今正体を明かしてしまうと、ハリー達に大きな誤解を与えかねない。あと、少し。

そして、リーマスが説明を始める。
―――長い説明を聞きながら、私は自分の非力さを嘆いた。
結局、何もする事は出来なかった。私の知っている結末じゃないか。

「だから、スネイプはあなたが嫌いなんだ」

セブルスと仲の悪かった話にハリーが口を挟んだ時、背後から冷たい声が響いた。

「その通りだ」

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