そして永久のいのちへと

白い光に包まれたまま、風が私を凪いで行く。真っ白な空間に一つ、遥か遠くに何かが見える。目の錯覚かとも思えたそれは、黒い小さな点だった。一粒落とされたその黒い何かは、段々大きくなり、遂には白いこの空間を飲み込んでしまった。


目が覚めると、そこは古びた洋館の見える墓地だった。

ここはリトル・ハングルトン。

私はすぐに理解した。ヴォルデモートに呼ばれたのだと。
この、リドルが住む地へ。

「…リドル」
「その名を呼ぶな」

立ち尽くす私の後ろにいたのは、まだ少し人間の面影を残すヴォルデモートだった。夢に現れたリドルでは無い。本物の、ヴォルデモート。

「私はどうやってここに?」
「お前と俺様はいつでも引き合う」
「…どうして、私が?」
「俺様の力でお前を甦らせた。だがな、新たに生まれたお前には力が足りなかった。ならばお前に合った環境を与えるのが一番だろう?くく、どうだ。お前は俺様の目論み通り、本物の力を手にしただろう」
「やめ、て」

その美しくも恐ろしい姿にしっくりくるような手つきで私の頬を撫でた。死の恐怖が背筋を走る。甦った?本物の力?一体私にどんな力があると言うのだろうか。

「私は、力なんて」
「思い出せ。お前の魂に与えられた使命、本当の力を。そして最後はお前の全て、魂ごと俺様と一つになる。そうすればこの世界は俺様の支配下となり、絶望と恐怖に満ちる」
「そんなこと、させない…!」

バチっと音を立て、ヴォルデモートの手が私の頬から離れた。ヴォルデモートの手からは煙が出ている。これは、守りの力?私にはヴォルデモートに抵抗する力がある?

「ほう…?俺様に抵抗する力を持っていると」
「絶対、あんたの思い通りになんかさせない…!」
「…忘れるな。お前は俺様が存在し、やっと型を成すただの傀儡に過ぎぬと言うことを!」
「うっ…」

ヴォルデモートが手を振り上げた瞬間、体に重い衝撃を受けた。私から溢れ出た白い靄…いや、魔力がヴォルデモートに吸い寄せられていく。体が燃えるように熱い。私が、消える―――!

「嫌だ!」
「ぐっ…!」

叫んだと同時に、抜け出ていた白い暖かな靄がぴたりと止まり、私の前に停滞した。ふわふわと形を成さないそれだったが、風と共に形を変え人のような、狼のような形を象った。それがヴォルデモートに絡み付く。

「体が無くても、魂だけは腐っても私の物よ!私に力を与えた時点で、その力は私の物になったのよ、絶対に、ヴォルデモートなんかに屈さない!」
「小娘が…!」
「人の暖かな愛情に、あなたは勝つことなんか…一生出来ない!」
「くっ…アバダ――」
「!ふくろう、」

今まさに死の呪文を唱えたヴォルデモートに急降下して来たふくろうが、杖を持つ手に体当たりしたのが見えた。がしかし、不完全とは言え放たれた光線が私の半身に当たり、吹っ飛んだ体は教会の壁に打ち付けられた。

頭に鈍い音が響き気を失いかけたが、がんがんと響く鼓動にはっと目を開くと、自分の右足と左手がおかしな方向に曲がっているのが見えた。死に至る事は無かったものの、全身が痛みで麻痺している。

―――動けない。

唯一動く目だけを動かし、ヴォルデモートの位置を確認するが、視界にその姿は入らなかった。何か伝えたい事があるのか、ふくろうは私の足元で頻りに翼を動かしている。怪我は無さそうだ。

「ありがとう…ふくろう、助けに、来てくれたんだ、ね」

まだ、死にたくない。ヴォルデモートを倒すことも出来ず、みんなに本当の自分を教える事も出来ないまま死ぬなんて。―――しかし、私の願いは叶いそうになかった。

「…お前は、少し野放しにし過ぎたようだな」
「っ…」

胸倉を掴み上げられ、四肢がだらしなく落ちる。頭部から滴り落ちる血に邪魔され目が開かない。死にたくない、死にたくない。

「さわ…るな…」

また、先程と同じように痛々しい音がヴォルデモートを拒み、その手が離された。今回は私も地に這う事になってしまったが。土の匂いと血の匂いが私に死の恐怖をどんどん沸き上がらせてくる。

「まあいい。今はその力だけでも構わん。魂など、また甦らせればいいだけの話だ」
「っ…がっ!」

折れた肩を踏みにじられ、呼吸を忘れた時。私は最後の言葉を発する間もなく、

「 アバダ ケダブラ 」

命の灯火を吹き消された。

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