※未来の泉と阿部くんの話。











阿部の体重を受けて、隣のベッドがギシリと音をたてた。
ごそごそと、足元に追いやられたタオルケットを引き寄せる阿部の表情はよく見えなかった。
枕元に置いた携帯の時計を見ると深夜1時をまわったところだ。液晶の明かりを見たせいでよけいに目が冴えてしまった。
「なに、まだ起きてんの」
こっそり見たはずの液晶だったが、真っ暗な部屋ではその光源を隠し切れるはずもなく。静かな部屋に阿部の声が沈んでいった。
はぁ、と溜め息をひとつ吐く。隣のベッドの方へ首を捻ると、アラームをセットしているのか、阿部の顔が手元の明かりに照らされていた。その顔は疲れているのか眠いのかはたまたその両方なのか、常に垂れている目元はさら垂れているようにも見え、瞼がとても重そうだった。
「なんか眠れなくて」
阿部が携帯をどこかへ放ったせいで部屋は再び暗闇に包まれる。さっきまで見ていた明かりのせいで目の前で光がチカチカと瞬いた。
「羊でも数えれば?」
「そんなもん一番最初に試した」
腹の上にだけタオルケットをかけた阿部の身体がこちらを向いた。俺も阿部側に寝返りをうって向かい合った。ベッドとベッドの間の1メートルと少し程度の距離を挟んで視線が交わる、暗闇に慣れた両目に欠伸をした阿部が映った。
「羊数えて眠くなったことねぇよ、昔っから」
そもそもなんで羊?完全に眠気が飛んでいってしまった。話し続ける俺に対して阿部はやっぱり眠たそうで、けれども律儀に返事をしてくれた、3回に1回くらい。
「羊数えンのって、たしか……どっか……イギリス…?外国の…」
「ん」
「どっか、欧米?…羊がいっぱい…うようよ放牧されてるようなとこ、の、…そういうとこの発祥なんだよ…うん…」
「へえ」
途切れ途切れになりながら羊について話す阿部の瞼はもうほとんど閉じていて、今にも寝息が聞こえてきそうだった。
「だから…んな文化ねぇ現代日本に生きてる俺たちには…馴染みがないから効果もねえ…の、か……?」
説明してくれていたと思ったら語尾が疑問形になっている。普段よりもやわらかな口調がなんとなく貴重に思えて、寝かせてやりたいところだがもう少し話しかけ続けることにした。
「じゃあなにを数えればいいと思う?今の日本にうようよいるモンってなに」
投げかけた疑問に阿部の返答はない。寝た?
様子を窺っていると、たっぷり時間をかけて返事を考えていた(のか寝ていたのかわからない)阿部がぽつりと言った。
「にんげん」
もごもごと話す阿部の口からこぼれた4文字に思わず笑いをふき出しそうになり咄嗟に口を手で塞いだ。
「はぁ…じゃあ人間数えるわ」
「……ん…」
肩を震わす俺に気付かない阿部はもう半分は夢の中なのだろう。俺もいい加減寝たいので真面目に数えようと目を閉じた。
(人間がひとり、人間がふたり…)
眠気は一向にやってこない。それどころかよけいな雑念ばかり顔を出してくる。ダメだ無心になって数えなければと思い、しかし人間を数えている時点で脳みそが働いているわけでそれじゃあ眠れないんじゃないかなんて考え始めたところでいつの間にか脳内を横切る人間の顔が阿部になっていて俺は大声で笑ってしまった。阿部がじゅうしちにん、阿部がじゅうはちにん…。
俺の笑い声のせいで阿部が目をさました。
やっとの眠りを邪魔された阿部が不機嫌な声を出すが俺の笑いは止まらない。
「やべー阿部がたくさん出てきた」
悪夢だわ、と呟けば、フンと鼻を鳴らした阿部がいい加減にしろとばかりに俺を一睨みしてから再び目を閉じて言った。
「めちゃくちゃいい夢じゃん」











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羊を数えるやつの由来は知りませんてきとーです

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