思考ジャック

※榛名と阿部の話(榛名不在)





ざわつく昼休みの教室。
隣に座る花井が窓の外、どんよりと暗い空を見上げてため息をついた。

「今日もグラウンド使えねぇなぁ」

阿部は相槌をうって、窓の外へ視線を移した。
ぎっしりと厚い雲に覆われた空は黒く、今にも雨が降り出しそうだ。

6月に入り、季節は梅雨の真っただ中。
連日の雨により屋外での練習ができずにいる野球部の面々は、それぞれフラストレーションを溜めに溜めていた。
特に田島あたりは今にも欲求不満が爆発しそうで、周囲をヒヤヒヤさせている。
こと野球にかけては田島と張り合うほどの情熱を見せる阿部もやはり同類で、同じクラスの花井と水谷は見るからにイラついている阿部にビクビクしていた。
本人はイライラを表に出さないようにしているつもりらしいが、二人からしてみればそれは一目瞭然だった。
以前「野球以外で阿部はわかり易すぎ」と言い放った水谷が、見事に阿部のうめぼしの餌食になったことがあるので、本人には伝えることができずただ遠巻きに見守るのみだ。


(野球してぇなぁ…。)

阿部は頬杖をついて空を睨む。
なんで梅雨なんてものがあるんだ。雨が大切ってことはわかるが、こんな毎日降ることはないだろう。毎年毎年この時期は野球ができなくて、普段以上にイライラする。
そう考えているうちにまた腹のあたりがムカムカしてきた。

「じゃあ俺、ちょっとシガポんとこ行ってくるわ」

阿部の苛立ちを感じ取った花井は、退散とばかりの足取りで教室を出て行った。


パラパラと降り出した雨は、あっという間に視界を覆い尽くした。
次々と落ちてくる雨のしずくを見ていると、先程までのイライラがスッとひいていくのを感じた。

(あいつも今頃、窓の外見て文句垂れてんのかな。)

止むどころかその勢いを増す雨に、頭を過ぎったのは榛名の顔だった。
自分と同じように、イラついて悪態を吐いているだろうか。こちらと違いあちらの学校には屋内のトレーニング施設が充実していて、まったく気にしていないというのもありえる。でもあいつのことだから、やはりピッチング調整を欠かしたくないだろうな…。


「あれっ、花井どっか行ったの?」
「ッ!」

物思いに耽っていたところへ突如降ってきた水谷の声に、大袈裟なほど驚いてしまった。
阿部が照れ隠しに無言で睨みつけると、「お、俺なんかしたかぁ?!」と怯える水谷。
そこにいるだけでうるさい水谷の存在に気がつかないほど、あいつのことを考えていたというのか。

怯える水谷がうざいのも、榛名のことばかり考えてしまうのも、どれもこれも全部梅雨のせいだ。
阿部は水谷から視線を外し、舌打ちをした。

「…野球、してぇな」









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梅雨小話
不憫なクソレフト

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