となりで

※田島と阿部の話







「なぁ阿部」

振り向くと田島が立っていた。
にんまりと顔に貼りついた笑顔が、気持ち悪いと思った。

「んだよ」
「なに怒ってんの?」

べつに怒ってない、と言うと田島はまた笑った。

「でも阿部、俺見ると嫌そうな顔する」

表情に出てたのか、と自分に舌打ちをした。
それでなくても田島は人のことをよく見ている。
大きな目をギョロギョロと動かして、周囲の人間を観察している。


まさに天真爛漫といった男だ。
しかしいつだったか、その無邪気な笑顔の中に時折見え隠れするものの存在に気がついた。
みんなは何も違和感を感じないのか、と周りを見渡してみても、誰もが「そうか?」と首を傾げた。
こいつは普段の行動からは想像できないほど、野球に対してストイックだ。
一緒にいるとよくわかる。田島は野球に愛された人間だ。
しかしそれと同時に、俺たちと同じ15歳のただの子供だ。
大きな才能、大きな期待、それに応えるだけの努力。
田島は頼りになるやつだ、と誰もが言う。
その小さな背中にどれだけの重圧がかかっているのか俺にはわからない。
そんなもの気にならない、とでも言うように田島は撥ねのけるだろう。
だとしても、だ。誰もそれに気がつかないなんて、寂しすぎると思った。
『田島は頼りになる』『田島なら大丈夫』『田島は俺たちとは違う』
それらの言葉はまるで、田島悠一郎という人間を理解しようとしないのと同じように感じられた。
(田島だって、悩んだり、するだろ?)
同じ場所に立つこともせずに、勝手に壁を作って遠ざける。
近付けないんじゃない、近付こうともしてないんだ。
弱音も吐かずに笑顔でいる田島にも、遠巻きに見てるだけのやつらにも、イライラした。
(お前が弱音吐いたって、誰も失望したりなんかしないのに。)


「それは、お前が、気持ちわりぃ顔してるからだよ」

田島は面食らったように、パチパチと瞬きを繰り返した。
それからプッとふき出して、ゲラゲラと笑い始めた。

「なっ…なに笑ってんだよ」
「あはっ!だってさあ、んなこと言ったの阿部が初めて!」

廊下を転げまわる勢いで腹を抱えて大笑いする田島に、わけがわからなくなって、なぜか顔が熱くなる。

「んな笑うことねーだろ」
「くっ…はは、うん、ごめんな」

苦しそうに息を吐きながら笑い続ける田島に、いい加減呆れてため息が出た。
こっちは真面目に話しているのに、と少し悔しくなる。

「じゃあさ、阿部」
「ん」

はぁはぁと息を整えてから、田島がゆっくりとこちらを向いた。
視線が真っ直ぐな視線が突き刺さる。

「阿部がさ、俺んとなりでずっと見ててよ」
「なにを」
「俺を」

そう言いきって、ニッと笑った。
その笑顔は、バッターボックスに立つ前の不敵な笑顔に似ていた。

「…やだ」
「なんで?!」

「おまえ自身だけじゃなくて、同じ景色も並んで見てやんよ」

それがチームメイトってもんだろう。









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なんか、、、意味不明

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