お茶でもどう

※準太と阿部のはなし






なんでこういう状況になったんだっけ。

準太は自分の前の席に座り携帯電話をいじっている人物に目を向けた。
まったく知らない人物というわけではない。
忘れもしない夏の大会で自身の学校に勝利し注目を集めた新設校の捕手だ。
バッテリーを組んでいた河合がまったく捕手向きなやつだと言っていたことも覚えている。
試合中はキャッチャーマスクを被っていたから顔は正直覚えていなかったが名前を聞いたらぼんやりと思い出すことができたという程度の存在。
そんな他校の一年生、つまり阿部隆也となぜこうして連れだって茶を啜っているのかと遠い目をしながら数十分前に記憶を遡らせる。

準太は夏大の初戦で敗退してから練習をさぼるようになった。
新しくバッテリーを組むことになった後輩の利央の願いも虚しく今日も今日とて練習をさぼりかといって帰宅することもなくふらふらと歩いていた。
なんとなく入ろうと思った本屋の自動ドアが開いたところで店内から出てきた男のでかいエナメルバックにぶつかって、怒鳴るつもりも絡むつもりも毛頭ないが振り向いてみたら目が合った。
ゲッと呟き眉をしかめた相手の腕を掴んで今に至る。

腕を掴むと相手はさらに眉間のシワを深めながら「すみません」と謝り、すぐに「じゃあ失礼します」と言ってその場を去ろうとしたが準太は腕を放さなかった。

「俺のこと知ってんの?野球部?」
「はぁ、まぁ。桐青の高瀬さんですよね」
「俺のこと知ってんならさ、ちょっと付き合ってよ」
「は?」

我ながらずいぶん強引だと思いつつも準太はその相手、阿部になぜだか興味が湧いた。



そういや自分が一方的に招いた状況だったかと一人納得して溜め息をひとつ。

「阿部はさ、今日練習ないの?」

手元の携帯からゆっくりとした動作で視線を上げた阿部は「西浦は水曜日ミーティングだけなんで」とそっけなく言ってから携帯を折り畳んでテーブルの上に置く。

「高瀬さんこそ今日は練習休みなんですか?」

阿部の大きなタレ目に正面から見据えられた準太は内心ギクリとしながらも、得意のポーカーフェイスを貼り付けて「うん、まぁね」となんでもないように答える。
阿部は一瞬訝しげな表情を見せてからへぇ、と気のない返事をした。


それから会話という会話もなく、準太は自分はなぜ阿部を引きとめたのだろう興味が湧いただけでこんなことしないだろそもそもなんで興味がわいたんだしかもそれに付き合ってくれる阿部もなんなんだ、と悶々としながら阿部の咥えるストローの先を眺めて時間を潰していた。
すると阿部の携帯がテーブルの上でブルブルと震え着信を告げた。
携帯をパカリと開き液晶画面の文字を追っているのであろう阿部の目を見ながら「こいつすっげータレ目だな」と思う。



「高瀬さん」



携帯を閉じた阿部は立ち上がると、小銭をテーブルに置いてエナメルバッグを肩にかけた。



「練習、さぼっちゃダメですよ」



突然の阿部の行動に驚いていた準太に一言そう言って「失礼します」とさっさと店から出ていった。



阿部が店を出てから数十秒後に準太は飛んでいた意識を取り戻してからハッと口元に手を当てる。


「なんであいつ俺がさぼってるって知ってんだ…」






翌日。
準太が部室のドアを開けるとバッと顔を上げた利央が駆け寄ってきた。


「準さんってば練習さぼっといてなんで西浦の捕手とお茶なんかしてんのぉ!!?」


部室に響き渡る利央の大声に他の部員たちは静まりかえる。
準太は「なんでお前がそれを知ってんだよ」という言葉を飲み込み利央の頭にゲンコツを一発くらわせた。









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自分もタレ目なくせに阿部のタレ目をガン見する準さん。
きっとこの阿部くんは何も考えてない。

なんで阿部くんにサボりがバレたのか⇒⇒⇒電波受信

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