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風変わりな同棲生活



「あ、おはようございます。コーヒー飲みます?」


目が覚めると名前がキッチンに立っていた。名前は「勝手にキッチン借りちゃってごめんなさい。昨日から何も食べてなくて、お腹すいちゃって…」と照れくさそうに笑った。その顔がお店で見る笑顔よりも幾らか少女らしさがあって、寝惚けた頭で可愛いらしいな、とぼんやり思った。

「じゃあ、ブラックで。」
「やっぱり?カカシさんはブラックだと思ってました。」
「どうして?」
「ん〜、イメージって言うのもあるけど、お店に来てくれたとき渋いお酒ばっかり飲んでるからかな?」
「はは、よく見てるね。」

名前は「仕事ですからね〜」と弾んだ声でコーヒーを淹れている。そんな名前の後ろ姿にちょっぴり困ってしまう。昨晩ストーカーに遭った名前は着のみ着のままやってきた。仕方がなくオレのTシャツとスウェットズボンを貸したのだが華奢な名前にはズボンはダボダボだった。そこで名前は困ったようにはにかんで「ワンピースにします……」とTシャツだけを持って行ったのだ。
ちょうど、お尻が隠れるくらいの丈でオレのTシャツを着ている名前は、なんだか……、というか単刀直入に言って官能的だ。いつの時代も彼シャツは男のロマンである。

名前が動くたびにTシャツの裾がゆらゆらと揺れて下着が見えそうになっている。恋人でもない名前に不埒な感情が沸いてしまいそうになるのは朝の生理現象のせいだと思いたい。ましてや名前は昨晩ストーカーに遭ったばかりだというのに………

「カカシさんも食べます?」

不意に名前が首だけ後ろを振り返った。
名前の動きに合わせてTシャツの裾がひらりと翻る。

「……………………あ、うん。」
「……カカシさん大丈夫?やっぱり、あたしがベッド取っちゃったから寝れなかった?」
「あ、いや、なんでもないよ。」

間の抜けた返事をしたオレを名前が心配そうに見ている。それから、オレの表情を伺うように両手に目玉焼きの乗ったプレートを持って「冷蔵庫のもの使っちゃいました。」とぺろっと舌を出して肩を竦めた。
まさか、名前のTシャツの裾が気になって返事が遅れた、なんて思春期の男子のような事は口が裂けても言えない。オレは曖昧に笑って後ろ手に頭を掻いた。

トーストと目玉焼きの乗ったプレートをテーブルの上に置いて向かい合わせに座った名前の顔には既にナチュラルなメイクが施されている。けれど、瞼は少し腫れているし、目の下にはうっすら隈ができていた。

「寝れた?」
「はい、おかげさまで。カカシさんこそ本当に大丈夫ですか?」
「オレは大丈夫だよ。名前こそ本当に平気なの?」

顔を見れば寝不足なのは一目瞭然だ。キッチンを使うことは遠慮しないのに、名前は変なところで気を遣う。こういう時は素直に怖いと言えばいいのに。

「…本当にムリしてない?」
「あ、えっと………」
「…はあ、変な気遣わないでしばらくオレの家にいればいいよ。」

疑うように名前を見たら案の定、目を泳がせて言葉に詰まった。本当は一人で家に帰るのが怖いくせにムリに気丈に振る舞おうとする名前に思わずため息が出た。名前は恥ずかしがるような、申し訳なさそうな顔で俯いて「すみません……お世話になます。」と遠慮がちに言った。

「もちろん。だけど、オレも一応男だから、その格好はなしね。」

にっこり笑って言うと、名前は今頃になって自分がどんな格好をしているか気づいたみたいだった。しまった!という顔をして慌てて椅子から立ち上がる。

「カ、カカシさん、もしかして見えた?」
「さあ、どうかな?」

後ろ手にTシャツの裾を押さえて焦っている名前が、なんだかおかしくってついにんまりしてしまう。愛想も良いし気も利く器量良しな名前はスナック木の葉では人気者なのだ。そんな名前の以外な一面を自分だけが知っているというのはちょっぴり優越感がある。

「もう!気付いてたんなら教えてくださいよー!」

名前は下着が見えないようにぴょんぴょんと器用に跳ねてソファに掛かっていたデニムを履いている。オレを睨み付けながら「カカシさんのばか!変態!えっち!もうお店に来てもサービスしてあげない!」とちょっぴりご立腹だ。

斯くして、オレと名前の風変わりな同棲生活が始まった。