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玄関先の攻防



「それ…新しいの?」
「うん。じゃ、行ってきます。」

新しい仕事用のパンプスに、すぐ気が付いたカカシさんに玄関で呼び止められた。「ふーん。」と少々不機嫌そうだ。カカシさんは鋭さを含んだ目であたしを見ている。その視線に少し居心地が悪くなったけれど、あたしはカカシさんを無視してドアノブを回す。それから思い出したようにカカシさんを振り返って言った。

「あ、今日も迎えに来なくていいから。」
「……また?最近、多すぎじゃないの?」

カカシさんの表情が途端に険しくなる。不服だと言わんばかりに、眉根に皺を寄せている。ピリピリと圧迫感のある雰囲気に思わず怯んでしまう。

「………カカシさんに関係ない。」

カカシさんの瞳にはまるで感情が込もっていない。自分でもひどい態度を取っていることは分かっている。それでもあたしはこれ以上、カカシさんに心を乱されたくなかった。カカシさんのことを好きになればなるほど、失うのが怖くなった。だからあたしは拒絶することを選んだ。

そんな時にちょうど良かったのが、あのどこぞの大名の放蕩息子だ。

仕事の延長という理由でカカシさんの迎えを断るには好都合だった。事実、あたしはあの放蕩息子と一線を越えるようなことはしていない。

「昨日なんて連絡なしに朝帰りしたくせに、関係ないなんてよく言えたね。」
「子供じゃないんだし、カカシさんにそんなこと言われる筋合いないでしょ。」

これじゃあ、売り言葉に買い言葉だ。感情を失ったままのカカシさんの瞳は傷付いているようにも怒っているようにも見える。こんなこと言いたいわけじゃないのに。大好きだから失って傷付きたくないのに、失うの前に自分で傷けて失おうとしているなんて滑稽だ。

このままカカシさんと顔を付き合わせていたら、もっとひどい事を言ってしまいそうで、あたしは今度こそドアを開けようとしたら――

「むかつくな。」

怒気を含んだカカシさんの声と同時に、腕を捕まれて体が反転する。そのまま肩を押されてドアに押し付けられた。痛くはなかったけど衝撃でドアが鈍い音を立てた。

「この間はあんなに嫌がってたくせに、新しい靴買ってもらったぐらいで喜んで尻尾振るわけ?お前は。」
「尻尾なんて振ってない……」

あたしは傷ついた。好きであんな放蕩息子に媚を売っているわけじゃないのに、カカシさんに尻の軽い女だと思われて悲しかった。自分からカカシさんのことを突き放したくせに心から千切れそうに痛い。

ドアに押し付けられたまま、怒りの炎が揺らめくカカシさんの瞳に射抜かれて動けなくなる。今すぐ逃げ出したいのに、カカシさんがこんなにも怒っている理由を知りたくて。あたしは押し黙ったままカカシさんの顔をじっと見た。

「絶対帰って来いって言ったのはお前なのにね。」

そう言ったカカシさんの瞳の炎は一瞬だけ陰って見えた。仕事用のドレスを纏ったあたしの剥き出しのデコルテを指ですーっと撫でられる。そのくすぐったさにびくっ肩が揺れてしまう。「ほんと、腹立つよ。」その言葉と同時に――

「えっ…ちょ、痛っ……あっ…」

カカシさんはがぶりとあたしの肩に噛み付いた。がぶがぶと容赦なく甘噛みされて少し痛い。

「は、離して…」

あたしは弱々しくカカシさんの肩を押して抵抗するも無意味だ。それどころか、いつのまにか腰にしっかりとカカシさんの腕が巻きついていてびくともしない。

「ひゃっ!」

急に首元を舐められて身を捩った。生温い舌が首すじに這わされて全身が快感で粟立つ。カカシさんの熱い吐息と濡れた舌の感触に思わず甘ったるい声が出てしまう。

「やっ、あっ……」

強く吸い付かれて、ちゅっと濡れた音がしてカカシさんが離れていく。相変わらずあたしはドアに押し付けられたままだ。

「居候のくせに。」

困っているようにも怒っているようにも見える顔で眉根を寄せて言い放ったカカシさんはあたしを離すと、何事もなかったように部屋へ戻って行った。

あたしはヒリヒリ痛む首すじを押さえてその背中を呆然と見つめていた。