ベッドと二人と眠らない朝


1.

 シャワーを浴びて部屋に戻ると、先に浴びていた臨也がベッド脇に座り込んで髪を乾かしていた。ドライヤーのひとつも置いてないの貧乏島、と罵られて無理やり最新型ヘアアイロン機能つきのやつを買わされたのは記憶に新しい。それを言うなら今臨也がもたれかかっているダブルベッドだって、背中が痛いだのなんだのうるさい彼がいつの間にやら購入して運び込んでいたものだ。古くてあちこちにガタがきているおんぼろアパートの一室にはあまりに似合わない巨大なベッドは部屋の半分を占拠している。玄関を開けるとまず真っ先に目に付くそれを静雄は不思議な思いで見やる。この部屋に残された臨也の気配、少しずつ増えていくそれを純粋に幸福と判断するにはまだ材料が足りないのだった。例えば彼のいない夜、無駄に広いベッドに横たわった瞬間、静雄は繰り返し一人であることを思い知る。孤独ならよく知っているつもりでいたが、誰かが側にいるぬくもりを知ってしまった後では辛さはより深くなるのだとは彼と出会ってから知った。
 愛することは愛されたいと願うことだ、静雄が臨也を愛するのと同じくらいいやそれ以上に臨也にも静雄を愛してほしい。臨也の全てを自分のものにしたい静雄の愛はひたすら一途だ。
「シズちゃん、また上半身裸で・・・服くらい着なって言ってるだろ」
「めんどくせえ」
「あーあもう、そればっか」
 高校のジャージの下をぞんざいに履いて、上は首にタオルを巻きつけただけという静雄の格好は確かにあまり褒められたものではないかもしれない。だがしかし、臨也の今の格好だって似たようなものだろう。上はいつものVネックを着ただけ。下に至っては黒のボクサーパンツを履いただけで細く白い脚がほとんど全て丸出しになっている。だるそうに投げ出された脚の無防備さにふとたまらなくなって、「ノミ蟲」と声をかけた。
 何、と返事が返ってくるより先に、横になってその脚の上に頭を乗せる。頬に触れる皮膚の暖かな感触、男のくせに臨也はひどく薄い体毛をしていた、滑らかな皮膚の感触が心地いい。

「何シズちゃん、膝枕とかどうしたの」
「・・・別に」
「ああまた髪拭いてない、俺の脚まで濡れてる」

 めんどくさいなあと言いながら、それまで自分の髪に当てていた温風を膝の上の静雄の頭に向けてくる。細い指が色の抜けた髪を掻き回すのがくすぐったい。
 甘い匂いがする。臨也のそばに近づけば近づくほど強くなる、頭の芯を痺れさせるような甘ったるいこの匂い。つられるように頬を太腿に寄せると、臨也がくすぐったそうに身をよじった。

「なにやってんの、」
「甘えな、と思って」
「ちょっ、何言って、」

 髪はもうだいぶ乾いている、臨也の脚を濡らすこともないだろう。ぐりっ、と額を太腿に押し付けて、弾力のある感触を楽しむ。両脚の合わせ目に額を割り込ませると、腿の間の柔らかい肉にたどりつく。臨也の体には薄いがしっかりとした筋肉が張り巡らされていて、触れても女のような柔らかさはどこにもない。だからこそ、太腿の内側の僅かな柔らかさに触れるたび彼の内側に入り込めたような気がして、少しだけ優越感に浸るのだ。
 しばらくそのまま額を脚に押し付けていると、何故かそれまで冷たかった両脚の皮膚が温かくなっている気がして驚いて顔を上げた。目の合った彼は頬を高潮させて息を乱していた。

「てめえ、」
「・・・っ」

 仰向けのまま、視線だけを横にずらす。ボクサーパンツに覆われた下腹部が明白に形を持っているのを確かめて驚いた。

「てめえ、まさか、」
「う、るさい」
「感じたのか?」
「いうな!!」

 途切れがちの荒い声で叫ぶ彼に、どうしようもなく興奮する。顔を寄せて黒い布地越しに勃起した彼のものを噛むと、じわっと布地が濡れるのがわかった。

「シズ、ちゃん、」

 するならちゃんとして、
 ささやく声がためらいがちな響きで静雄の耳をくすぐる。狭苦しい部屋に似合わない巨大なベッドは二人の隣に静かに存在していた。

back/Next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -