14.

 しばらくして、ナミが決然と顔を上げた。
「・・・こんなことしている場合じゃないわ。サンジくんを探さなくちゃ」
 ウソップとロビンも頷く。
「サンジくんを止めるつもりはないわ。サンジくん自身が真剣に考えて選んだことなら、私たちがどうこう言う筋合いはないもの。でも・・・でもね、それを仲間の私たちにひとことも伝えずにひとりで決めちゃう、それが許せないの!!」
 何が何でも怒鳴りつけてやらなきゃ気が済まないわ。そう言ったナミの目に光るものが見えたのは、気のせいではないはずだ。
「とにかく、サンジくんとチョッパーを見つけて、止めなきゃ」
 二度と話せなくなるかもしれないんだから。
 震える声でそう言いきって、ナミは顔を上げた。
「ウソップ」
「おう」
「市を探して、聞き込みをしましょう。サンジくんのことだもの、きっと治療よりも買い出しを優先するわ」
「・・・だろうな」
 サンジとチョッパーが下りてから既にかなりの時間が経過している。買い出しも終えてしまっているだろうが、彼らがどこに向かったのか聞き出すことくらいはできるかもしれない。トナカイを連れた金髪の黒スーツなど滅多にいないはずだ。覚えている人間は多いだろう。

「ロビン」
「ええ」
「あんたは船に居たまま、探せる限りの広範囲を探してちょうだい。ついでにルフィとゾロの捜索もお願い。もし見つけたら、とにかく船に戻ってくるように指示して。迷子になりそうなら先導して」
「わかったわ」
「ごめんね、負担をかけるかもしれないけど・・・」
「私なら平気よ」
 黒髪の美女は決然と頷いて、胸の前で腕を組み、目を閉じた。同時にナミとウソップの肩から手の花が咲く。
「連絡用に『耳』と『目』を咲かせたわ。何かあったら伝えてちょうだい」
「わかったわ」
「了解!」
 目と目で頷き合い、ウソップとナミは懸命に街に向かって走りはじめた。


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 何があのコックの態度を軟化させたのだろう。
 一人で街を歩きながら、ゾロは昨夜の事を考えていた。刀は和道一文字のみを手元に残し、鍛冶屋に研ぎに出している。残りの二本が帰ってきたら和道一文字を出すつもりだった。
 いきなりキスしてきて、「肌の感触を知りたい」「触ってみたい」と微笑んだ。いつものように快感だけを追うのではなく、温もりと優しさを与えあったセックス。
 何が彼をそうさせたのだろう。このひと月、彼は一体何を考えていたのだろうか。わからない。
 普段は解らないことがあれば考えるのをやめて眠ればよかった。でも、今度ばかりはそうもいかない。解らないから、眠れないのだ。胸の上に重石のような何かがつかえて、じれったくて仕方がない。
 ・・・ん?
 視界の隅に当のサンジの姿を捉えて、ゾロはとっさに振り向いた。どうやらチョッパーも一緒だ。大量の荷物を二人で抱えている。買い出しの帰りらしい。これから泊まる場所を探すのだろう。
 チョッパーがいなけりゃ声をかけるんだが、きっと今のあいつなら素直な対応をするだろうし、と思いかけてはっとする。俺はいったい何をあのクソコックのことばかり考えているんだ?第一、声をかけてどうするというのだ。一緒に仲良く荷物を抱えてホテルに二人でお泊まりか?・・・それも悪くねえな、などと結論しかけた思考回路を思い切り蹴とばして無理やり二人から視線をそらした。


 二時間ほどあてもなく歩いて、どうやら街外れまで来たようだ。大分日も傾いてきている。そろそろ宿を探さなくてはいけない。だが問題は、宿を探すあても金もないということだ。少し考えて、野宿するかと結論する。少々地べたで寝ようが壊れるような柔な腎臓ではないはずだ。
 なるべく目立たない裏路地を探して、ごろんと横になる。目を閉じてそのまま寝てしまおうとしたとき。
 よく知った、黒髪の女性が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「剣士さん?」
「・・・ニコ・ロビン」
 ぼそりと返答すると、ロビンが緊迫した様子で囁いてきた。
「ねえ、コックさんを見なかった?」
「・・・二時間ほど前に見たが、それがどうした」
「見たの?」
 ロビンらしからぬ上ずった物言いに驚いて身を起こす。
「どこで見たの?」
「あー・・・覚えてねえが、鍛冶屋に刀を研ぎに出したすぐ後だったから、その辺りかもしれねえ」
「どんな様子だった?」
「買い出しを片づけてきたとこだった。チョッパーも一緒だ」
「・・・そう」
 まずいわね。焦ったように呟くロビンに、嫌な予感がした。
「・・・何があった」
「早くコックさんを見つけないと、大変なことになるの」
「大変なことって・・・何だ」
「説明は難しいのだけれど・・・」
 訥々とロビンが事情を語る。簡潔にまとめられてはいたが、それでも何が起ころうとしているのか、そして彼女がどうしてこんなに焦っているのかは嫌と言うほど分かった。
 唖然として立ちあがった。
「適当なこと言ってんじゃねえぞ!」
「剣士さんも、最近コックさんの様子がおかしいことには気づいていたでしょう?」
 努めて冷静に事実を伝えようとしているロビンの声音に背筋が冷える。そうだ。ひと月前からサンジの様子はおかしかった。そして昨日は特にだ。
「・・・クソコック・・・」
 歯ぎしりが漏れた。気づいてやれなかった自分の愚かしさに。
 もしかして、ここひと月ゾロを避けていたのは、それを隠すためだったのか?それなのに、自分は苛立ちに任せて強引に彼を犯したのか?
「剣士さん、いそいでその場所へ向かって!今航海士さんと狙撃手さんが二人の行方を聞き込みしているわ。船長さんとも連絡がついたし、今私も全力で探している。でも、まだ見つかっていないの・・・」
 早く止めなければ、手遅れになってしまう。
 まだ言っていないことがあるのに。伝えていないことがあるのに。
「鍛冶屋の場所は解るか?」
「ええ、たぶん」
「悪ぃ、案内してくれ」
 ゾロはゆっくりと言った。自分の迷子癖のひどさは解っている。自らの方向感覚にしたがったところでとんでもない場所にたどりつくのが落ちだろう。
「わかったわ」
 ロビンの毅然とした声が聞こえる。
 同時に、出しうる限りのスピードでゾロは地面を蹴って走り出した。

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