雨音に紛れて囁く愛は[4]
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「ナマエ!」

走りながら、その名を呼ぶ。
土方部長の腕の中にいたナマエが、はっと俺の方を振り向いた。
その目が、驚きに見開かれる。
俺は速度を緩めることなく駆け寄り、左手に提げたビジネスバッグを路上に捨ててナマエの肩を掴んだ。
そのまま、土方部長から引き剥がすよう強引に引き寄せる。

「きゃ!」

ふらついたナマエが小さな悲鳴を上げた。
それに構わず、彼女と正面から向かい合った。
視界の端、土方部長が唖然と俺たち二人を見ている。

渡すものか。
絶対に、貴方にナマエを渡しはしない。

空いた手で濡れた前髪を掻き上げ、俺は勢い良くナマエに口付けた。
驚いたナマエが慌てて逃れようとするのを、後頭部を押さえ付けて阻止する。
そのまま、雨に打たれて冷えた唇を、角度を変えて何度も吸った。
触れ合うそばから俺の熱を奪っていくその唇が、狂おしいほどに愛しかった。
手放せるはずがなかった。

「んぅ……はっ、は、」

ナマエの抵抗が止んだのを感じてからようやく唇を離せば、息を切らした彼女が呆然と俺を見上げてくる。
その瞳の中に見つけた焦りの色に、俺は堪らず声を荒げた。

「あんたは…っ、どういうつもりだ!一体何をやっている!」
「な、にって、」
「俺を好いていると言ったのは嘘なのか」
「……え?」
「仮にそうだとしても……あんたは誰にも渡さん。何があっても、だ」

そう告げて、もう一度その唇を奪おうとナマエを引き寄せた。
その時だった。
不意に、頭上から叩きつけるように降っていた雨が途切れた。
はっと振り仰げば、黒い傘の内側。

「ったく、馬鹿かお前は」

すぐ側に、俺とナマエ二人の頭上に傘を広げた土方部長が立っていた。

「こいつの足下を見やがれ」

土方部長に有無を言わせぬ口調で命じられ、訳が分からぬまま視線を落としたアスファルト。
水浸しのその上に、ナマエは右足だけを素足、いや、ストッキング一枚で立っていた。
左足には、見慣れた黒のパンプス。

「…その、ヒール、折れちゃって」

ぽつりと呟かれたナマエの言葉に、少し視線をずらせば。
ヒールが根元からぽっきりと折れたもう片方のパンプスが、降りしきる雨の中に転がっていた。

「………」
「ヒールが折れてバランスを崩したこいつを支えただけだが何か文句があるか」

土方部長の呆れ返った眼差しが、どうにも痛い。

「……その、何故、傘が一本なのでしょうか」
「さっきの突風でこいつのビニール傘が折れたから俺の傘に入れてやっただけだが何か文句があるか」

いよいよ居た堪れなくなって俯いた俺は。

「………お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」

そのまま深く頭を垂れた。

「ったく、早とちりしやがって。トラブって直接頭下げに行ってその帰りに土砂降りにあって、挙句の果てにこれだ」

ついてねえな、と舌打ちされる。
俺は当然何も言えず、ただただ項垂れるばかりだ。

「まあいい。面白かったっちゃあ面白かった。…ほらよ、」

そう言って、土方部長が手にした傘の柄を俺に差し出してくる。

「いえ、それでは土方部長が濡れてしまいます」
「今更だろうが馬鹿野郎。俺もお前も別にいいんだよ。だが、女が雨の中傘もささずに歩いてんのは体裁悪いだろうが」

気を付けて帰れよ、と背を向け歩き出した土方部長。

残されたのは俺と彼女と、大きな黒い傘と。

「…ねえ、はじめ」
「……………何だ」

「ちょっと、惚れ直したかも」
「っ、」

思いがけない、ずぶ濡れの報酬だった。



雨音に紛れて囁く愛は
- やがて虹を渡って心に溶ける -




あとがき

aoiさん

…ど、どうでしょう…(ドキドキ)。こ、こんなかんじで大丈夫でしょうか。年上ヒロインを溺愛する、普段は不器用でストイックな斎藤さん。何かのきっかけでネジをぶっ飛ばして豹変。水濡れシーン付き。というリクエストにお応えすべく、尽力した結果なのですが…。なんというか、グダグダ?リズム感が…ない、気が…。あああ、ごめんなさい。事前に、サイトにお持ち帰りして下さると伺っておりましたので、aoiさんのサイトの品を落とすわけにはいかないと頑張ったのですが…私の文才ではこれが限界でした。せっかくの素敵なリクエストがまるで活かせていない…(泣)。
こんな駄作でよろしければ、是非とも貰ってやって下さい。ちなみに、もしサイトに掲載して下さるようでしたら、ページ分割やフォントカラー等は全てaoiさんのお好みでご自由に変更して頂いて大丈夫ですので!!
この度は、素敵なリクエストをありがとうございました。これからもよろしくお願いします(^^)




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