貴方の愛に堕ちてゆく[3]
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その隙を見計らったのか何なのか、風間さんが突然身体を反転させて私と場所を入れ替わると、さっきまで私が座っていた椅子に腰を下ろした。
当然とばかりに、私を道連れにして。

「わっ!」

突然回った視界に、思わず風間さんが着ているワイシャツの胸元を掴む。
緩やかな衝撃をやり過ごしてから目を開ければ、私は椅子に座った風間さんの膝の上に、まるでお姫様抱っこのように乗せられていた。

「お、おっ、おもっ!」

重いから降ろして下さい、と言いたかった私の声は、二音目までしか音にならず。
風間さんの声に遮られた。

「重くても構わん。大人しくしているがいい」

そして唐突に降ってきた、唇。

構います、という絶叫は、それもまた音にはならず。
今度は風間さんの口内に消えた。

キスを、されている。

そう気付くまでに数秒の時間がかかり、そして気付いたとて既に手遅れで。
そりゃ確かに、今さらキスの一つや二つで狼狽えるような年齢じゃないかもしれないけれど。
だからって、こんないきなり奪われていいものでもないはずた。

「かっ、風間さん!」

そう、唇が離れるなり抗議しかかった私の声は。

「千景だ」

風間さんの、愉悦に満ちた言葉に遮られた。
この人は、私の言うことを最後まで聞く気が欠片もないらしい。

「も、とにかく離して下さい、風間さん!」
「千景、だ」

誰が名前なんて呼ぶものか。
そう、無視を決め込んだのだが。

「…呼べ、ナマエ」

腰が砕けそうなほど艶やかな声で促され、耳元に掛かった吐息に背筋が震えた。

「…ち、かげ、さん」

恐る恐る、初めてその名前を唇に乗せる。
すると次の瞬間、再びの浮遊感。

「きゃあ!」

気がつけば今度は、風間さん、いや千景さんに抱き上げられていて。
そして次の瞬間、私は千景さんと二人でベッドに沈んでいた。
さすがエグゼクティブルーム、ベッドのスプリングが高級感たっぷりだ。
なんて呑気なことを言っている場合ではないと、慌てて起き上がろうとしたのだが。

「上出来だ、ナマエ」

私の上に覆い被さった千景さんが、私の両手首を掴んで真っ白なシーツに縫い止める。
見上げればそこには、ベッドサイドのランプを映した緋色の瞳が燃える焔のように揺らめいていた。

「よいな?」

良くない。
何も良くない。
いいはずがない。

しかしそれらは声にならず、私は必死で首を横に振った。

「無理矢理は趣味ではない。頷け」

いや、もうその時点で無理矢理だ。
私はもう一度首を横に振る。
すると千景さんは、小さな溜息を一つ零してから私を真っ直ぐに見下ろしてきた。

「……一目惚れだった。ナマエ、お前を愛している。笑いたければ笑うといい。だが、」

降り注ぐ、どこまでも真摯な眼差しと。
熱い、吐息。

「俺から逃れることだけは、許さん」

その言葉に、その表情に、心臓がとくんと音を立てて高鳴ったのは気のせいだということにしておきたい。
でもどうやら、赤くなった頬は誤魔化せなかったらしい。

千景さんが、ふ、と笑って。

「お前に拒否権はない。黙って俺に愛されておくがいい」

そう言って二度目の、今度は深い口付けが降ってきた。


そこから逃れる術は、どうやらないらしい。
今も、そしてこれから先も、ずっと。




貴方の愛に堕ちてゆく
- 諦めた、この瞬間からずっと -



あとがき

あき姉さんへ

ど、どうでしょう?(ドキドキ) 激甘って、こんなかんじで大丈夫ですか?足りない?それともやりすぎました?
色々不安が尽きないのですが…しかも文字数の関係で裏が入れられず、申し訳ありません。
リクエストメールの中にあった、ちー様がヒロインちゃんと口説き落とす、というイメージで書いてみました。とにかく甘い台詞になるように意識してみたのですが…恥ずかしかったです(笑)。お気に召して頂けると良いのですが…。

いつもたくさんのメールと応援、本当にありがとうございます。これからも、末長くどうぞよろしくお願いします(^^)




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