[14]最後に君が微笑んで
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「大丈夫か」

ナマエの上に倒れ込んだ斎藤は、荒い息を整えながら腕に力を込めた。
そうして身体をナマエの隣にずらし、顔を上げたところで。
視線の先、ナマエは気を失って眠っていた。

初めてだと言っていたのに無理をさせてしまった事実に今更気付き、斎藤は申し訳ない気持ちになる。
だが、どうしても抗えなかった。
優しくしてやりたい、そっと包み込むように、穏やかに愛したい。
そう、思うのに。
身体は本能に忠実に、ただただ快楽を貪った。
きつく離さないように抱きしめ、己のものだと証を刻み、激しく突き上げた。
彼女に傷をつけた誰かに、これ以上ないほど嫉妬した。

俺のものに、と。
そう思った。

「…狂っている、な」

ぼそりと、斎藤は呟く。
そう、狂ってしまった。
ようやく手に入れた、ようやく深く入り込んだ、ナマエという存在。
斎藤を惹きつけて離さない、まるで中毒のようだった。

「あんたは、俺のものだ。この身体も、この傷も、何もかも」

そう言って、斎藤は眠るナマエに口付けた。
昨日まで、ごめんなさいと謝り続けたナマエの唇が、いま己を受け入れている。
その事実に、斎藤は安堵を噛み締めた。

今日この部屋を訪れるまでずっと、恐れていた。
ナマエはもう、俺のことなど好いてはいないのかもしれぬ。
また拒絶されて終わるかもしれぬ、と。

しかしそれは、斎藤の杞憂に終わった。
重なった想い。
受け入れられた熱。
込み上げたのは、限りない愛おしさだった。

片肘をついて頭を支え、斎藤はナマエの寝顔を見つめる。
緩やかに繰り返される呼吸。
上下する胸元には、大きな傷痕。
だが斎藤は、それを醜いとは決して思わなかった。
確かに痛々しいとは思う。
怪我を負い、縫合治療を受けたナマエのことを考えると、己が変わってやりたかったとも思う。
だが、それでナマエの身体を美しくないとは感じなかった。
この傷も含めて、愛したいと思った。


「…ん、」

見つめる、斎藤の視線の先。
瞼を震わせ、ナマエがゆっくりと目を覚ました。

「あ、れ…?」

ぼんやりと定まらない視点、彷徨った手。
斎藤は空いた右手を伸ばし、ナマエの手を繋ぎとめた。

「起きたか」
「…さいとう、さん?」

その、常からは考えられないような無防備な口調に、斎藤は薄く微笑む。
やがてこの状況を思い出したのか、ナマエが焦ったように顔を背けて身体を捩った。
くつくつと、斎藤の喉が鳴る。

「…あんたは、可愛らしいな」

そう、しみじみと呟いて。
斎藤は寝転んだまま、逃げようとするナマエの身体を抱き寄せた。
照れて恥ずかしがるナマエを抱きしめ、素肌から熱を分け合う。
その温もりに、ほっと息をついた。

「ナマエ」

長い黒髪の隙間から覗く耳に、唇を寄せて。
斎藤は、ゆっくりと胸の内を吐き出した。

「感謝する。俺を、受け入れてくれたあんたに」

怖かったろう。
たくさん思い詰めたのだろう。
それでも、両腕を広げてくれた。
そのことがただ、嬉しかった。

そう言って微笑んだ、斎藤の腕の中。

「…斎藤さん、大好き、です」

ナマエが、不意打ちのとんでもない爆弾を落とした。
そのせいで斎藤は、一人恐ろしい忍耐を強いられることとなった。


ああ、ちなみに斎藤。
初めての時は、一回だけにしておけよ。


原田の助言が、今となっては恨めしかった。




心を重ね合わせたならば
- 優しい愛の音がした -



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