とらわれたのは私か[2]
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「それで、どうしたの?」

会話の切れ目を見計らって、私はトシ君の方を窺った。

トシ君は先程まで、このプロジェクトのリーダーを務めていた近藤さんの隣にいたはずだ。
近藤さんとトシ君が旧知の仲だということは、私も知っていた。
それなのにわざわざ私のところに来たということは、何か話があってのことだろう。
そう思って水を向けると、トシ君は少し驚いたように目を見開いて、そして次にその目を細めた。

「今日は無礼講なんだよな?」

その薄い唇から出てきたのは、妙な問い掛け。
問いの意味するところを掴みかねたが、間違ってはいないと頷けば、トシ君はニヤリと笑って。

「ってえことは、口説いてもいいってことだよな?」

そう言って、桔梗色の瞳で私の顔を覗き込んだ。

「…は?」

恐らく私は、相当に間抜けな顔を晒したことだろう。

「…待って、なに、酔ってるの?」
「酔ってねえよ。烏龍茶だって知ってんだろ」

返ってきた答えに、ああやっぱり、なんて思っているうちに、紫紺が近付いてくる。
こんなに至近距離でトシ君の顔を見たのは初めてだった。

「で?どうなんだよ?」
「な、にが?」
「おい、人の話聞いてたか?口説いていいのかって聞いてんだよ」

今さらになって、先輩に向かって何て口の利き方だ、なんて思っても手遅れだ。
そのぶっきら棒で横暴な話し方に、心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚える。
そもそも何だ、その質問は。
YesともNoとも言い難いではないか。

「…だ、め…じゃな、い…」

結局、ひどく曖昧な回答を選んだ。
だがトシ君はそれで満足したらしく、その瞳を意地悪そうに細めた。

「任せとけ。お開きまでに、落としてみせる」

そう言ったトシ君の瞳の奥、紫紺の向こうに燃え盛る焔を見た気がした。
これはもしかして、何かやばいスイッチを入れてしまったかもしれないと後悔しても後の祭り。

「ちょ、っと!」

トシ君は口角を引き上げて私の腕を掴み、自分の肩に凭れるよう誘導した。
当然男の人の力になんて敵うはずもなく、私は後ろ向きにトシ君の肩口にダイブする。

その頃になってようやく、周りで騒いでいた皆が私たちの異変に気付いたのだろう。

「おいっ土方!抜け駆けかー?」
「何やってるんですか、早く離して下さいよ」

左之やら総司やらの声が聞こえるが、正直私はそれどころではない。
背後の熱に気を取られ、火照った顔を俯けるので精一杯だ。
アルコールのせいだなんて言い訳は、通用しそうもない。

「お前らうるせえよっ」

トシ君が少し照れくさそうに周りを一喝し、私の腰を抱き寄せた。
いよいよ密着した体勢に、私の鼓動が速まる。
そこにまるで追い討ちをかけるかのように、トシ君の低音が耳元を掠めた。

「こんな時じゃねえと、あんたに近づけねえんだよ」

ちょっと待ってよ。
それは、どういう意味。

しかし思わず振り返った私を待っていたのはその問いに対する答えではなく、驚くほどに優しい口づけだった。


お開きまで保つ自信は、残念ながらない。



とらわれたのは私か
- それとも貴方か -


ネタを提供して下さったあき様に、感謝の気持ちを込めて



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