X-静寂に包まれて-[2]たくさんの計器類とモニターを前に、ナマエさんはキーボードを叩いている。
モニターの1つに、僕のヒーロースーツの映像が映っていて。
ジェイク戦でボロボロになったはずのスーツは、すっかり元の形を取り戻していた。
「耐熱テスト終了」
不意にナマエさんが、手元の小さな機械に向かって声を出す。
そういえば、いつかナマエさんが言っていた。
絶対にミスが許されない仕事だから、大切なことは全て録音して後で確認するのだと。
「スーツ内体感温度32度、気圧変化なし。計器類異常なし、レーダーオールクリア」
久しぶりに聞いたその声が、ただ嬉しくて。
「続いて、逆噴射スラスター…」
突然、ナマエさんが黙り込んで。
ふと、僕の方を振り返った。
僕を見付けた双眸が、大きく見開かれる。
「…おかえり、バニーちゃん」
柔らかな、優しい声音。
待っていたと言わんばかりの、その台詞。
「ただいま帰りました、ナマエさん」
そう返せば、ナマエさんが嬉しそうに微笑んだ。
「いつ退院したの?」
僕はゆっくりとナマエさんの方に歩み寄る。
「今朝です。虎徹さんも一緒に」
心配していただろう彼女に、そう報告する。
「そっか、よかった。怪我はもういいの?」
いつもはもっと分かりづらいのに、今日の優しさはなんだか直球で。
妙に擽ったかった。
「はい、もうすっかり」
何箇所かまだ包帯を巻いているが、もう痛みはほとんどない。
「とか言って無理するんだから。ほどほどにね?」
そう言って、ナマエさんは呆れたように笑ってから。
んー、と両手をあげて伸びをした。
よく見れば、目の下には隈が出来ていて。
その随分と疲れた様子に、まだ朝なのにと不思議に思った。
「一体いつからここにいるんですか?」
朝早くから来ていたのだろうかと、そう尋ねれば。
「えーっと、2週間前くらい?」
疑問符つきで返されて。
その数字に唖然とした。
2週間前、ジェイクとの戦いがあった日だ。
「まさか、それから1回も帰ってないんですか!?」
「あぁでも、ちゃんと仮眠はとってるよ」
「そういう問題じゃありません!」
2週間、だなんて。
そんなに無理をしてくれたのか。
僕がボロボロにしたスーツを、直すために。
「そんなに怒んないでよ、壊した張本人が」
呆れた口調でそう言われて、思わず口を噤んだ。
「…すみません」
彼女の言う通りだ。
仕事を増やしてしまったのは、明らかに僕が原因で。
申し訳なさで、胃が痛かった。
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