Happy birthday to you.
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たとえば、である。

高級レストランの、フレンチフルコースだとか。
夜景の綺麗なスイートルームだとか。
豪華客船の花火つきクルージングだとか。
そんな、大層なものを期待していたわけじゃない。
もちろん、彼だったらどれもやり兼ねないのは分かっているけれど。
別にそんな、贅沢がしたかったわけじゃない。
こだわりたかったわけでもない。
ただ、一緒にいたかった。
一言、祝福してくれるだけでよかったのに。

思った通りにはいかない、そんな28回目の誕生日。


「じゃあ、行ってきます」

非番の日の夕方。
誕生日くらいとオフを取って、自宅で寛いで。
たぶん無理矢理な理由で早退してきたバーニィが、家に来てからものの30分。

鳴り響いたコール。
いくら恋人の誕生日だろうと無視できないその音に、バーニィは盛大な溜息を一つ。
私よりも残念そうにしながら、手早く身支度を整えて。
さっき入ってきたばかりの玄関に、ちゃんとヒーローの顔をして立っている。
その声音は、まだ不機嫌そうだけど。

「うん、気をつけてね」

ショートパンツにキャミソールというラフな部屋着のまま、バーニィを見送る。
寂しさなんて、見せるわけにはいかないから。
いつも通りの笑顔で。
もちろん、バーニィにはお見通しなのだろうけれど。

にこり、と笑えば。
バーニィは一瞬の間の後に、小さく溜息をついた。

「まったく…」

そう呟いたかと思えば、急に長い腕に引かれて。
気づけばバーニィの腕の中。

「そんな魅力的な格好の貴女を置いて行くなんて、お預けをくらった気分です」

降ってくる、低い声。
魅力的もなにも、かなりラフな格好なのだが。
バーニィは、さも残念そうに私の腰を抱き寄せた。

「せっかくの誕生日なのに、すみません」

申し訳なさそうな声音。
髪を撫でてくれる大きな手に、ふるりと首を振る。
それは、ヒーローとして当たり前のこと。
誕生日だろうが記念日だろうが、彼に休みはない。
そんなこと、とっくの前から分かっていたし、それを理解できなければヒーローの恋人など務まらない。

「だから、これ」

先に渡しておきますね、と。
身体を離したバーニィが、ライダースの中から取り出したのは小さな箱。
ぽかんとしたままそれを受け取れば、バーニィは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「お祝いは、俺が帰ってきてから」

その言葉に、私は手の中の白い箱を抱きしめた。

「早く帰ってきますから、待ってて」

最後にそう言って、バーニィは私に素早くキスを一つ。
ドアの外に出て行く姿を、私ははにかんで見送った。


午後11時35分。

あと25分で、今年の誕生日が終わろうとする頃。
私はリビングのソファーに腰掛け、HERO TVを観ていた。
胸元には、夕方バーニィに貰った誕生日プレゼントのネックレス。
華奢なシルバーのチェーン。
トップを飾る鮮やかな翡翠は、バーニィの瞳を思わせる。
可憐なネックレスを、なんとなく指に絡めながら。
見守るTVの中では、長かった事件がようやく終結していた。
タイガー&バーナビーの華々しい活躍で、犯人は逮捕。
怪我人もなく、スマートなラストを飾った。

しばらくして、画面いっぱいにバーニィのインタビューショット。
疲れているだろうに爽やかな営業スマイルを見せる彼に、思わず微笑んだ。

「素晴らしい活躍でしたね」

リポーターに向けられたマイクに、バーニィが答える。

「ありがとうございます。怪我人がいなくて安心しました」

早く帰るという約束は、叶わなかったけれど。
彼が無事なら、それでいいと思う。

インタビューの最後、何か一言、というリポーターの声に。
バーニィは一瞬考え込んだあと、真っ直ぐにカメラを見つめた。
画面の向こう、周囲の喧騒を突き抜けて。

「誕生日、おめでとうございます」

そう、柔らかい口調で。
彼は笑った。
いつもみたいな営業スマイルなんかじゃなくて、2人きりのときに見せる愛おしそうな笑み。
全市民に放映されているというのに、そんなことまるで気にしていなさそうに。
そう言って、リポーターの追及を笑顔で躱し。
バーニィは、画面の中から消えた。

「…ばか、」

胸元のネックレスを、ぎゅうと握りしめて。
私は呟く。
最高のプレゼントをくれた彼が帰って来るまで、あと1時間。
日付は変わってしまうけれど、そんなことはどうだっていい。

どんな風に出迎えようか。
そんなことを考えながら、私の28回目の誕生日は幕を下ろした。




Happy birthday to you.
- 貴女が生まれてくれたことに、感謝を -





あとがき

しゅり様
お誕生日おめでとうございます!!
間に合いましたでしょうか、それだけが不安でございます。遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
素敵なリクエストをありがとうございました。一風変わったお祝いになりましたが、お気に召して頂けましたでしょうか。公共電波で愛を囁くバニーちゃんでした。
しゅり様のお誕生日が、素敵な1日になりますよう。ささやかではございますが、御祝いとしてお贈り致します。




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