A darling rainy day
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その日は、7月も末だというのに冷たい雨が降った。
比較的気候の安定したシュテルンビルトでは珍しい、季節外れの低い気温。
昼になっても、上着なしでは出歩けないような寒さだった。
幸い風は強くなく、しとしとと静かに雨が降る。
空には、どんよりとした灰色が垂れ込んでいた。

薄紫のブラウスに、グレーのスカート。
この時期に着ることは珍しい揃いの上着を羽織って、アポロンメディアを出る。
肩に掛けたバッグが濡れないように気をつけながら、傘をさした。
ちょうど、帰宅ラッシュの時間だ。
道行く人は皆、傘を手に身を縮め、足早に駅を目指す。
その波に溶け込んで、歩き出した。

モノレールに乗ると、満員とまではいかないものの、そこそこ混み合っていて。
ドア付近に立って、流れていく景色を眺めた。
色とりどりの傘が目に映る。
今日の夕食は、温かいものにしよう。
そんなことを考えながら、自宅の最寄り駅で降りた。

改札を抜けて、外へ。
雨で霞んだ視界の中、ふと見つけのは。
ロータリーに、見慣れた赤い車。

あれ、と思って近づくと。
運転席側のドアが開いて。傘を片手に降りた、バーニィの姿があった。
いつもの赤いライダース、雨だというのにしっかりセットされたハニーブロンド。
長い足で濡れたアスファルトに立つその姿は、霞んだ景色の中で唯一、鮮明に映る。

持っていた傘を畳んで、バーニィの持つ傘の下に。
助手席側までエスコートされて、開かれたドアの中に滑り込んだ。
すぐに、運転席にバーニィが戻って来る。

「ありがとう。でも、どうしてわかったの?」

シートベルトを締め直すバーニィに、声を掛ければ。

「貴女のことなら、なんだって」

そんな、気障な台詞が返ってきた。
似合ってしまうのだから、困ったものだ。

「さて、帰りましょう」

そう言って、バーニィはアクセルを踏み込んだ。

フロントガラスを叩く雨粒。
視界は、良好とは言い難い。
さっきまで、気分はなんとなく沈んでいたのに。
いつの間にか、そんなことは忘れていた。
隣りに座るバーニィを見れば、ちらりと微笑みが投げかけられた。
くすり、と笑う。

「今夜は、ロールキャベツにしようね」

信号が赤になって、ゆっくりと停まる車。
雨音と、時折ワイパーの音。
それらに重ねて、そう言えば。
バーニィは、ひどく嬉しそうに笑った。




A darling rainy day
- 愛すべき雨の日よ -




あとがき


あかつき様
お待たせ致しました。この度は、リクエストをありがとうございました。
雨の日にお迎えに来るバニーちゃん、いかがでしたでしょうか。なんだか、台詞の少ない夢っぽくないお話になってしまって、申し訳ありません。いつものことですが..
あかつき様は雨の日がお好きですか?私はあまり好きではないのですが、こんなふうに誰かが迎えに来てくれるのなら悪くないかな、なんて思いながら書かせて頂きました。
これからも、小さな幸せをお届けできるよう頑張って更新致しますので、ぜひまたお越し下さいませ^^



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