私の家のキッチン事情[2]
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もちろん、そうやって感謝されるのはとても嬉しい。
毎日の掃除や料理を、当たり前と思わずに感謝できる、そんな人なのだと思うと幸せになる。

だが、それとこれとは話が別だ。
ダイニングからは虎徹さんの、美味そうだなあという大きな独り言。

「ちょ、バーニィ。虎徹さんが」

待ってるから、という言葉は彼の唇に奪われてしまった。
深い、深いキスが一つ。

「やっぱりエプロンっていいですね」

唇を離したかと思えば、耳元でそんなことを言う。
壁一枚隔てた部屋に同僚がいるというのに、一体何を考えているのか。

「も、ばかっ」

恥ずかしすぎる。
私は咄嗟にサラダの皿に手を伸ばし、ちょっと大きめに切ったサニーレタスを指先で摘むと、意地悪な彼の口に無理矢理押し込んだ。
もご、と声を詰まらせたバーニィの横を擦り抜けてダイニングへ。

「お待たせしました」

何でもない風を装って、サラダをテーブルに並べた。
私の後から、バーニィがダイニングに入ってくる。

「なんだなんだ、遅いと思ったらつまみ食いしてたのか、バニーちゃん」

バーニィが口の中のレタスを咀嚼しているのを目敏く見つけた虎徹さんが、拗ねたように言い募る。

「ええ、とびきり美味しいところを頂きました」

バーニィが私の方を見て、ニヤリと微笑んだ。
彼の言うとびきり美味しいところ、は決してレタスのことではないだろう。
私は虎徹さんに見られないようにバーニィを睨みつけてから、椅子を引いた。

バーニィはといえば、そんなことどこ吹く風で上機嫌にワインを開けている。
なんだかんだそれを許してしまうのだから、私も甘いなあと。
苦笑いして、私はグラスに注がれる赤色を眺めた。



私の家のキッチン事情
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