最期の刻[1]
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あの時の恐怖と絶望を、僕はきっと忘れないのだろう。


薄暗い、ジャスティスタワーの展望台で。
周りをぐるりとH-01に囲まれて。

既に体力は限界。
能力だって切れている。
他のヒーローたちも、成す術なく。
向けられた、ビームライフル。
視界の端には、息絶えた虎徹さんとその身体に縋る楓ちゃん。

もう、どうにもならない。
これで終わりだ、と。
そう悟った瞬間。
ゆっくりと瞼を下ろせば、目尻に残っていた涙が頬を伝った。

最後まで諦めるな、と。
虎徹さんの怒鳴り声が聞こえた気がしたけれど、もう身体は動かなかった。
ここで僕は死ぬのだと、頭が理解していた。

その時僕が感じたのは、決して死ぬことに対する恐怖ではなかった。

瞼の裏に焼き付いた、笑顔。
大切な、大切な人。
唯一無二の存在である、ナマエ。
彼女を遺して逝くこと。
それが、何よりも怖かった。

約束、したのに。
傍にいる、ずっと愛している。
必ず幸せにする、と。
そう誓ったのに。
僕は今、彼女の知らないところで命を終えようとしている。

この夜が明けた時、世界に僕はいない。
それを知った時、ナマエはどうなってしまうのだろう。

僕は、その悲しみを、その痛みを知っている。
彼女だって、知っている。
それなのに僕は、もう1度彼女に喪失を味合わせようとしている。

守ると、約束したのに。
もう二度と泣かせたりしないと、決めていたのに。
なのに僕は、どうすることもできない。
手を失っても、立てなくなっても。
僕は彼女の元に帰らなければならないのに。
ただいま、と言って、おかえり、と返してもらわなければいけないのに。

突破口は、ない。
敵を倒すことも、ここから逃げ出すこともできない。

帰らなければ、ならないのに。


ナマエ、ナマエ、ナマエ、

脳裏に焼き付いて離れない笑顔に、叫ぶ。
名前を呼びたいのに、声が出なくて。
手を伸ばしたいのに、身体は言うことを聞いてくれない。

駄目だ、駄目だ、駄目だ。

心が叫ぶ。
ここで死んではいけない。
彼女を置いては逝けない。
泣かせるわけには、いかないのに。
それなのに、もう何も出来ない。
ただ、死を待つことしか。

その事実に、愕然とした。
恐怖が、胸一杯に広がる。
約束したのに、守れない。

こんなところで、終わりだなんて。

たくさん、笑顔をくれたナマエ。
僕に幸せを教えてくれた。
こんな僕を、愛してくれた。


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