貴女に捧ぐこの胸いっぱいの愛を[9]
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バスローブを脱ぎ捨て、互いに裸でベッドに潜り込んだ。
人生初のキングサイズだが、実際に必要なスペースはほんの一部だ。
互いに向かい合って、秋山は腕の中にナマエの肢体を抱き締めた。
軽く柔らかなコンフォーターの中で触れ合う素肌の温もりは、溜息が零れるほどに気持ち良い。
この圧倒的な充足感は、ナマエを抱き締めることでしか得られないと思った。
啄ばむようなキスを交わしながら、互いの腕や背中に触れて、温もりを感じ合う。
穏やかで甘く優しい時間だった。
ナマエの瞳が愛おしげに笑っている。
触れて、触れられて、その存在を確かめて、抱き締め合って。
普通よりも死に近い生活をしているからこそ、大切で尊い時間。
こうして傍にいられるだけで幸せなのだと伝え合うことが出来る、あたたかな触れ合い。
そう、傍にいられるだけで、

「……秋山?」
「………すみません」

幸せだ。
間違いなく、幸せだ。
だが生憎と聞き分けの悪い下半身は、それだけで満足してくれなかった。
空気が読めていないにも程があると、秋山は頭を抱える。
そんな秋山の懊悩する姿を見て、ナマエが愉しげに笑った。

「いいよ、分かってたし」

仰向けに寝転んだナマエが、両手を広げる。
それは赦しをくれる優しい天使なのか、悪戯に誘惑する小悪魔なのか。
どちらにせよ、秋山の取る行動は一つだった。
ナマエの嬋媛たる肢体に覆い被さり、腕の中に閉じ込めて深く口付ける。

それから互いに三度ずつ果てるまで、秋山はナマエを離さなかった。


「ーーっ、ぅ……、はぁ……っ、ぁ……、ーー ナマエさん?」

その夜五度目の欲蜜をナマエの中に注ぎ、詰めていた息をゆっくりと吐き出した秋山は、顔を上げ、眠ったように目を閉じたナマエに呼び掛ける。
秋山と同じ数だけ達したナマエは、どうやら最後の絶頂で気を失ってしまったようだった。
無理もないと、秋山は自身の絶倫な精力に呆れ返る。
毎度それに付き合わされるナマエとしては、堪ったものでないだろう。
申し訳なさと、愛おしさと。
秋山は絡めていた指を解くと硬度をなくした欲望をゆっくりとナマエの中から引き抜き、ナマエの隣に倒れ込んだ。
流石の秋山も、全身が倦怠感に支配されている。
だがそれも不快なものではなく、心地好い満ち足りた疲労感だった。
意識を失くしたナマエの呼吸が静かに繰り返されていることを確かめ、脈拍を測り、それから緩やかに抱き寄せる。
弛緩した身体に痛みを与えないよう優しく抱き締めて、丁寧にその髪を撫でた。

「ありがとうございます、ナマエさん」

嫌だと、もう無理だと言われたら、秋山だって諦めるのに。
ナマエは秋山のトラウマに気付いているのか、一度もそれらの単語を使って行為を拒絶しなかった。
ばか、変態、絶倫、と罵りながらも、柔らかく秋山を抱きとめてくれた。
その優しさに付け込み甘えた結果がこれでは秋山としても非常に申し訳ないのだが、正直に言えば、やはり嬉しくて幸せだ。
ナマエをこの手で乱し、啼かせ、そして繋がることが出来るのはこの世で自分ただ一人だという多幸感と優越感は圧倒的だった。

「ナマエさん……愛してます」

眠るナマエの耳元に愛を囁いて、薄く開いた無防備な唇にキスを落とす。
身体を綺麗にしてあげないと、と秋山が上体を起こしかけたところで、不意にナマエの瞼が震えた。
秋山が見守る先、ナマエがゆっくりと目を覚ます。

「ナマエさん、大丈夫ですか?」

ぼんやりとした瞳がやがて焦点を結び、秋山の姿を認識した。
そんな覚醒の仕方すら、秋山には愛おしい。
今ここにいるのが秋山でなければ、ナマエは間違いなく一瞬で飛び起きただろうに。
瞼を数度、重そうに瞬かせてから、ナマエはようやく口を開いた。

「もしかして、とんでた?」
「はい。すみません、無理をさせました」
「……何時?」

ナマエの問いに、秋山は顔を上げる。
視線で探すのは勿論、ベッドサイドのテーブルに置いた腕時計だった。

「三時二十分ですね」
「三時……」

ナマエが、頭痛を堪えるように眉を顰める。
言いたいことはよくよく理解出来ていた。
途中に何度か休憩は挟んだと言えど、かれこれ八時間、ずっと身体を重ねているのだ。
しかも、時間に余裕がある分普段よりも良く言えば丁寧で、恐らくナマエにとっては随分としつこかっただろう。

「お風呂、もう一度入りましょうか」

謝罪の意を込め、秋山はナマエに口付けてから提案した。
お互いに、それぞれの体液で身体はベトベトだ。
秋山はベッドから降りるとナマエの身体を抱え上げ、そのまま横抱きにしてベッドルームを後にした。

「ほんと、見掛けによらずだよねえ」
「はい?…ああ、お姫様抱っこですか?」

いくら細身とはいえ、ある程度鍛えている成人女性の身体を抱き上げるには、それなりな筋力が必要だ。
例えば日高のように高身長で明らかに力強いと分かる体躯であれば誰もが納得するだろうが、秋山の外見だと意外にも見えるのだろう。

「まあ、力の入れ方を知ってるってのもあるんだろうけど。でもほんと、着痩せするなあ」

ナマエが感心したように呟いて、秋山の首に腕を回した。
服の上からだと分かりづらいが、秋山は特務隊でも一、二を争うほど筋肉質だ。

「何かあった時、貴女を抱えられないと意味がありませんからね」
「なにそれ」

秋山の発言を冗談だと思ったのか、ナマエが笑った。
秋山としては、正真正銘の本音である。
この大切な恋人の役に立てなければ、意味がなかった。

すっかりぬるくなったバスタブの湯を張り直している間に、シャワーを浴びることにする。
こういう時にレインシャワーは便利だった。
天井から降ってくる温かな湯で、汗やら淫液やらを洗い流す。
足元の覚束ないナマエを常に片手で支えながら、秋山はナマエの身体を洗ってあげた。
と言うよりも、洗わせてもらった。
泡立てたスポンジでナマエの肢体を洗う作業の、なんと甘美なことだろうか。
数時間に渡って溶かされた身体はすっかり敏感になっていて、皮膚の薄い箇所や性感帯を少し擦る度に悩ましい声が漏れ聞こえた。
全身泡だらけで身を捩り秋山に縋り付く姿は、控えめに言っても凶悪なほどにセクシーだ。

「……ナマエさん……すみません……」

だから、仕方なかったということにしてほしい。

「……また、したくなってしまいました」

先程流石に力尽きたはずの下半身が、すっかり元気を取り戻していた。
正直に白状した秋山をぼんやりと見上げたナマエが、数拍置いてその発言の意味を理解し、目を丸くする。

「うそでしょ……」

唖然と呟かれた言葉は、秋山の心情と見事に一致していた。

「あきやま、ねえ、流石に限界だって……」

ナマエが焦ったように秋山から身体を離す。
呆れなのか怯えなのか、緩く頭を振るナマエに、秋山は申し訳なく苦笑するしかなかった。
ナマエの言う通り、流石にこれ以上は無理かもしれない。
ナマエには先にベッドに戻ってもらって、その後一人で処理すればいいだろうか。
そんなことを考えていた秋山は、次にナマエが発した提案に絶句して固まった。

「……くちでいい?」

凶悪を通り越して、ナマエはもう秋山専用の破壊兵器だ。
窺うように見上げてくる視線を受け、秋山は眩暈を起こしかけた。
秋山の無言を肯定と受け取ったらしいナマエが、その場に膝をついて顔の横に垂れた髪を耳に掛ける。

「ちょ、まっ、ナマエさ、ーーーッ」

秋山の制止は間に合わなかった。
唇の隙間から覗いた赤い舌が、秋山の屹立をぺろりと舐める。
その刺激に加え、視覚的にも興奮を煽られ、秋山は身体を震わせると背中を壁に押し付けた。
膝立ちになったナマエが、熱芯の根元を両手で支えて先端に舌を這わせる。
ずぶ濡れで泡だらけの姿になったナマエが懸命に奉仕してくれるさまは、秋山の神経を次々と焼き切っていった。
伏し目がちに裏筋をゆっくりと舐め上げるナマエは、喩えようもないほどに扇情的だ。

「ッ……は、ぁ……っ、あ、あ……っ」

秋山は震える手でナマエの髪を乱し、快楽に耐えんと歯を食い縛った。
その手の動きを催促だと判断したらしいナマエが、一度秋山を上目遣いに見上げてから、再び視線を下げて秋山の熱芯を唇で挟み込む。
そのままゆっくりと頬張られ、秋山の背筋を快感が駆け上がった。
津液をたっぷりと溜め込んだナマエの咥内に包み込まれた欲望が、びくんと脈打つ。

「ぐ、ぅ……っ、ナマエさ、ぁ……っ、ん、」

秋山を知悉した巧みな舌遣いはあまりに的確で、頭がおかしくなりそうだった。
そもそも、ナマエの薄い唇の間を己の醜い欲望が出入りするという絵面がすでに激しく興奮を煽る。
半ば嘔吐きかけながらも喉の奥まで深く銜え込んでくれるその健気さに、愛おしさが溢れ返った。
その上、ナマエが自らの身体に付着した泡を片手で掬って秋山の内腿に擦り付け、それを潤滑剤として張り詰めた双袋までやんわりと撫で摩るといういやらしいことまでしてくれるものだから、秋山にはもう耐えられない。

「ナマエさ……っ、いい、ですか……っ?」

自身では制御出来ない腰の揺れを自覚しながら許しを乞えば、秋山の熱を銜え込んだまま、ナマエがちらりと秋山を見上げた。
窈窕たる瞬きが一度、そしてぎゅっと口を窄められる。
秋山を絶頂へと追い込むその動きに促され、秋山は腰を突き出した。
限界まで屹立した熱芯を、ナマエが唇と手を使って激しく扱いてくれる。

「ぅ、あ……っ、あ、は……っ、ナマエ、さん……っ」
「いいよ、らひへ」
「ーーっ、そこで喋らない、で……っ、ぐ、ぅ……っ、ーーーぁああっ」

腰がまるで自分のものではないかのように激しく前後し、次の瞬間、秋山はナマエの咽喉目掛けて遂情した。
殆ど痙攣に近い状態で震える身体。
そこに追い討ちをかけるのがナマエであり、残滓をちゅうと吸い取られ、秋山はみっともなく喘いでナマエの頭に縋り付いた。
唇から、唾液と荒い呼気が零れ落ちる。
何とか上体を起こして大理石の壁に背中を預ければ、秋山の熱芯から唇を離したナマエが尻を床に下ろして座り込み、しっかりと視線を絡めた状態で口の中の液体を全て飲み干した。
ほら、とばかりに小さな口を開いて舌を見せ付けてくるナマエはいやらしくて淫らで、そして堪らなく可愛い。
秋山は力の抜けた腰を叱咤してその場にしゃがみ込み、ナマエに口付けた。

「ありがとうございます」

秋山は決して、昔から精力絶倫だったわけではない。
むしろ以前は非常に淡白だった。
それをひっくり返してしまったのがナマエの存在であり、だから秋山は、他に例を知らない。
それでも、こんな男の我儘を許してくれるのはきっとナマエだけだと、そう思った。



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