たとえば君が傷ついて[1]
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「…また、ですか?」

ひどく、寂しげな声音で問われて。
ちょっと言葉に詰まった。


それは、夜バーニィの家で夕飯を食べた後のこと。

明日虎徹さんと飲みに行って来るね、という何気ない報告だったのだが。
ソファに腰掛けたバーニィが、まるで捨てられた仔犬みたいな目で見上げてきた。

「今月、2回目ですよね」

それは決して咎めるという風ではなく、ただ悲しそうに。
ぺたりと伏せられた耳が、頭の上に乗っているように見えてしまった。

バーニィは、私と虎徹さんの関係性をちゃんと理解してくれている。
そうでなければ、私が誰かバーニィ以外の男と2人きりで飲みに行くなんて彼は許さなかっただろう。

私にとって虎徹さんは会社の先輩であり、付き合いの長い友人だ。
もう何年も前から、気まぐれに2人で飲みに行くのが習慣となっている。

バーニィもなんだかんだ言いつつ虎徹さんを信頼しているから、一緒に飲みに行くことを許してくれているのだろう。
だが確かに、恋人が別の男と飲みに行っていい気分はしないだろう。
もしかしたら私は、ずいぶんと彼に我慢を強いていたのかもしれない。


「なーに、ヤキモチ?」

だから敢えて茶化してみる。
真剣に謝ったりなんかしたら、それこそ疚しいことでもあるのかと疑われそうだ。

「そんなんじゃ、ないですけど…」

ごにょごにょと、バーニィが言い淀む。

「すみません、ナマエ。貴女と虎徹さんがそういうのじゃないっていうのは、分かっているんですが…」

頭では分かっている。
だけど、嫌なのだと。
バーニィは呟いた。

それは、名付けるならば嫉妬心、独占欲。
だがバーニィの場合、そこにあるのはただの我侭ではない。
底知れぬ、恐怖だ。

喪失を、孤独を知っているが故に、彼は恐れる。
再び何かを失うことを。
人よりも過剰に、ひどく怯えている。
そうと知っていて、私は彼の隣りを選んだのだ。
バーニィの感情を、重いとは思わない。
そのくらい、私を縛り付けてくれればいい。


「バーニィ」

名前を呼んで。
ソファに腰掛ける彼の膝の上に座って。
バーニィの肩に、顔を埋めた。
大好きな、シトラスの香り。

「…こんな俺は、嫌いですか?」

その、一人称も。
弱音を吐く不器用な姿も。
全て、私だけが知っているバーニィ。

それが、ひどく嬉しいなんて。
独占欲が強いのは、むしろ私の方だ。
それを表に出さないから、気づかれないだけで。


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