[14]佩剣者の首輪
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「それで、何かあったんですか?」

今夜は絶対に仕事を切り上げ、部屋に来て下さい。
プライベート用のタンマツに届いた宗像からのメッセージに従い、ナマエは朝までに片付けてしまおうと思っていたプログラミングを途中で切り上げてきた。
何か大事な話でもあるのだろうかと、宗像を見上げる。

「ええ、少し待っていて下さい」

宗像はそう言うとナマエを離して寝室に行き、何か箱を持って戻って来た。
宗像の、指を広げた手の大きさくらいの箱だ。
色は黒で、艶消しのマッド加工が施されている。

「これを君に」
「………なんですか、これ」

差し出され受け取ったものの意味が分からず、ナマエは首を傾げて宗像を見上げる。
その視線の先、宗像はふわりと笑った。

「誕生日プレゼントですよ」
「……たん、じょうび……」

記憶が蘇る。
去年の宗像の誕生日。
宗像は、ナマエの誕生日を作りましょう、と言い出して。
ナマエは、だったら宗像と出会った日がいい、と答えた。
それが、今日だったのか。
一年前の今日、宗像に拾われたのか。

「ナマエ。生まれてきてくれて、生きていてくれて、ありがとうございます。十八歳、おめでとう」

何の衒いもなく真摯な瞳を向けられ、ナマエはまごついた。
どう返していいのか、全く分からない。
その反応自体が、宗像の予想通りだったのだろう。
宗像はクスクスと笑い、開けてみて下さい、と促した。
ぎこちない手つきで、ナマエはプレゼントだという箱を開封する。

「………くびわ……?」

蓋の下から現れたそれに、ナマエが首を傾げる。
それを聞いて、宗像は楽しそうに喉を鳴らした。

「装飾品ですので、チョーカーと呼ぶそうです。……ですが、解釈は間違っていませんよ」

首輪です、と。
宗像はレンズの奥で目を細めた。
ナマエはチョーカーを取り出し、掌の上に乗せてまじまじと見つめる。
革製品で、色はシンプルな青。
余計な装飾はなく、留め具はベルトのようになっていた。

宗像がナマエの手からチョーカーを取り上げ、留め具を外す。
そのまま一歩ナマエに近付き、髪の下を潜らせてナマエの細い首にそれを嵌めた。

「苦しくないですか?」

こくり、とナマエが一つ頷く。

「良く似合っていますよ」

意図した通りの効果に、宗像は口角を吊り上げた。
ああ、やはり、猫に首輪をつけたような気分だ。

「ナマエ、前にも言いましたが。君は私の…………いえ、…………君は、俺のものだ」

え、と。
首元のチョーカーを指で確かめていたナマエが、宗像を振り仰いだ。
そこには宗像が初めて晒す、雄の表情があった。

「だから、それを外すことは許さない」

宗像が手を伸ばし、チョーカーと皮膚との境をなぞる。
宗像の目に宿る生々しい欲に、ナマエは背筋が震えるのを感じた。
自分が何に囚われたのか、ナマエは正確に理解した。
そしてそれを、心地好いと感じた。

「………お風呂の時、どうすれば、いいの」
「おや、それはお風呂に入る時以外は着けておいてくれる、ということですか?」

ふ、と雰囲気が和らぎ、宗像が表情がいつもの笑みにすり替わる。
いいですけど、と小さく呟いたナマエに、宗像は嬉しそうに首筋を撫でた。

「……でも、仕事中もだめ、ですよね」
「いえ、構いません。着けていて下さい」
「……規則、とか、いいんですか、」
「結構です。もしこの先誰かに指摘されたならば、私の命令だと言って下さい」
「…………それ、性癖、誤解されますよ」

ナマエが呆れて苦笑すれば、宗像は心外だと眉を潜める。
しかし、強ち誤解ではないのかもしれない、とも思った。
流石に口には出さなかったが。
代わりに宗像はナマエの背に腕を回し、すっかり宗像の身体に馴染んだ形を抱き締める。
小さくて、でも温かい、宗像だけの仔猫。
その印を首に結んだ、愛おしい仔猫。

「ナマエ」

先のことは、分からない。
これまで宗像しか知らなかったナマエは今後、セプター4で多くのものに出会うだろう。
たくさんの人に会い、様々な世界を見る。
何を選び、何を捨てるのか。
それを決めるのはナマエ自身であり、ナマエにはその力がある。
いつか、終末を迎える日が来るのかもしれない。

だがそれでも、今はこう思っていたい。

「君は、俺に会うために生きていてくれた。……ありがとう」






その青に囚われて
- 男は王に、仔猫は剣になった -





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