[13]掲げられる大義
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先代、羽張迅の死後十一年の時を経て、セプター4に新たな青の王が立った。

宗像の行動は迅速かつ強引だった。
インスタレーションを躊躇したことがまるで嘘のように、先手を取ります、と宣言し、ナマエにセプター4のありとあらゆる情報を集めるよう命じた。
ナマエは二つ返事でそれに応じ、宗像が石盤に喚ばれたその日の夜には、過去十五年分の情報を宗像に提示した。

「とりあえず、椿門に行ったらまずは、セキュリティの強化から始めた方が良さそう、ですよ」

平然とセプター4のネットワークにクラッキングをかましたナマエを見て、宗像は苦笑するしかなかった。

迦具都クレーターの一件で前王である羽張が死んで以降、セプター4を実質動かしていたのは羽張のクランズマンである塩津元だった。
しかしそれも一年程前の事件を機に活動を休止。
戦闘力を持たない僅かな後方支援部隊の一部だけは残存し、黄金の指揮下に入ったが、それ以外は全て解散するに至った。
つまり現時点において、セプター4という組織は全く機能していない状態にある。

「………なるほど。残党を一掃し、新たな駒を集めるところからのスタートということですね」
「性格悪そうな笑い方、ですね」
「おや、心外ですね」

くすくすと、宗像は笑う。
その笑顔のまま、次の指示を飛ばした。

「明日、椿門に赴きます。私は先に外堀を埋めてきますので、内部は君に任せます。外部からの侵入を完全に塞ぐことができるよう、セキュリティの強化を。それと、隊員寮も含め全室に監視カメラと盗聴器を設置して下さい。情報の受信は、全て私だけに絞るように」

矢継ぎ早に飛んだ指示に、ナマエはこくりと頷きかけ、ある一点に気をとめた。

「カメラ……私の部屋もいります、か?」
「もちろんです」
「変態」
「おやおや、今更照れなくとも良いでしょう」

君の身に何かあっては困りますからね、と。
それらしく嘯く宗像に呆れながらも、ナマエは命令を承服した。

翌日からは、怒涛の忙しさだった。

宗像は御柱タワー、首相官邸、国防軍本部、と各方面に足を運び、形式を整えた。
セプター4の全権を御前より返還させ、宗像はあっという間に新体制を確立した。
一方ナマエは椿門に残り、宗像の指示通り動き始めた。
庁舎を隈なくチェックし、前王ないし他勢力の監視カメラまたそれに類するものの有無を確認し、新たにカメラと盗聴器をセットした。
同時に対外セキュリティを強化し、システムを丸ごと一新させた。
宗像から、予算はあとでどうにでもするから金に糸目をつける必要はないと言われている。
その言葉に甘え、ナマエは使い物にならない機器を片っ端から破棄し、最新システムを導入した。

宗像がデザインした新しい制服、標章、室長室の内装に至るまで、何もかもが一新され、新生セプター4は動き始めている。

宗像と長時間に渡って離れるのは初めてのことだったが、やることが多すぎて休む間もないため、恐怖や不安を感じることもあまりなかった。
それでも夜、眠る時間がある時は必ず宗像と共に自宅に戻った。
隊員寮のセキュリティチェックと清掃が終わってからは、宗像に充てがわれた部屋で一緒に寝るようになった。


そんな日々が半月ほど経ったとある日の夜、ナマエは青雲寮の宗像の部屋を訪ねた。

「ナマエ、おかえりなさい」

出迎えてくれた宗像は既に部屋着である浴衣に着替えており、にこにこと笑みを浮かべている。

「ただいま、です」

ナマエは鬱陶しいとばかりに制服の上着を脱ぎ捨てた。
宗像の影響で家では浴衣で過ごしていたせいか、日中ずっと制服を着ていると窮屈で仕方ない。
宗像が意匠を凝らした制服のデザインは嫌いではなかったが、まだ慣れなかった。

「首尾はいかがですか?」
「問題ない、ですよ。誰にもばれないように動かなきゃならないのが、少し、面倒ですけど」

そう言って唇を尖らせたナマエを見て、宗像は笑みを深める。
宗像は、期待以上に上手くやってくれているナマエを労うべく、その身体を抱き寄せた。

「君の存在はしばらく公にせず、セプター4の膿を裏から全て洗い出してもらいます。もうしばらく耐えて下さいね」
「………別に、それなりに、面白いし、いいですよ」

ナマエがもごもごと腕の中でフォローするので、宗像はありがとうございます、と頭の天辺に唇を落とした。

「……ただ、緑がもう動き出してます、よ。あと、赤も」
「おや……随分とせっかちなことですね」
「……礼司さんが、言いますか?」
「ふふ、そうでしたね」

そうですか、赤もですか、と宗像は意味深長に呟き、思考を巡らせながらナマエの髪を梳いた。

「大丈夫、ですよ。……負けません、から」

ぽつり、と零された言葉に、宗像は目を細める。

ナマエは変わらない。
何一つ、変わっていない。
それが宗像を救っていると、本人は気付いているのだろうか。

「ええ、信じていますよ、ナマエ」

ナマエにとっての自分も、変わっていなければいい、と。
宗像は思った。




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