11月30日 日曜日
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明日からはもう12月。
今年もあっという間だった。

12月といえば……そう、恋人たちの一大イベント、クリスマスが待っている。
今年は曜日の並びが悪くて、24日も25日も平日だけど。
やはり、せっかくだから何かクリスマスっぽいことをしたい。
だって今年は、彼と付き合うようになってから初めてのクリスマスなのだ。
恋人と一緒に楽しい時間を過ごす。
それこそ、クリスマスの醍醐味だと思う。

「せっかくだし、サプライズとか用意してみようかな」

いつも雰囲気に余裕のある彼の、驚いた顔を見てみたい。
とはいっても、どんなことをすれば驚いてくれるだろうか。
喜んでくれるだろうか。
これまでサプライズの用意なんてしたことがないから、一体全体何をすればいいのか分からない。

「こういう時は、ネットに頼るのが早いよね」

パソコンを立ち上げ、"クリスマス サプライズ"と打ち込んで検索をしてみると、予想通り。

そこには、
厳選!クリスマスの夜、恋人に喜ばれるサプライズ
とか
これはNG!クリスマスサプライズのありがちな失敗
とか
過去にされて嬉しかったサプライズベスト10
とか。
そんな見出しがずらりと並んでいた。

とりあえず画面をスクロールさせて、下の方まで見てみると。

「サプライズ相談所……?」

何やら奇妙なサイトを発見した。

相談所ってなんだろう。
何か怪しいものを感じるけれど、好奇心に負けてクリックしてしまう。
しかし開いたページは予想に反してポップなデザインで、まるでお洒落なカフェのホームページみたいだった。
実際、背景の写真には、何やらゆったりとしたソファとテーブルが写っている。

"恋人、友人、家族への素敵なサプライズを一緒に考えませんか?"

謳い文句としては、なかなか素敵なのだけれど。
一体誰が相談に乗ってくれるのか、営業時間や料金の詳細も載っていない。
ただ、店、というか相談所の場所が書いてあるだけだった。

「怪しすぎるでしょ……」

絶対におかしい、普通じゃない。
……とは、思うんだけれど。

「……店の前まで行ってみるくらいなら、平気だよね」

またまた、好奇心に負けてしまった。
幸い、場所もそう遠くない。
店の前まで行ってみて、怪しそうだったらそのまま素通りすればいいんだから。

思い立ったが吉日、私はコートを羽織って家を出た。



そうして辿り着いたのは、外観だけでいえばどう見ても普通のカフェだった。
全然怪しくないし、むしろかなりお洒落な雰囲気だ。
場所を間違えたのだろうか。

恐る恐るドアに近付いてみる。
すると、何やら木製のプレートがぶら下がっているのが見えた。

"サプライズ相談所"

やはり、ここで合っているらしい。
入るか、入らないか。
数秒悩んでから、私はゆっくりとドアを押し開けた。

そして、驚いた。

店内には、大きなテーブルが一つあった。
その向こうに、男の人が座っていた。

「………へえ、お客さん?」

その人が、私を見て目を細めた。
逆に私は、目を見開く羽目になった。
だって、物凄いイケメンだったのだ。

無造作に跳ねた栗色の髪。
綺麗な翡翠色の目。
誰がどう見たって間違いなくイケメンだ。

自慢じゃないけれど、私の恋人は格好いい。
でもこの人は、彼に負けず劣らずのイケメンだった。

「そんな所にぼーっと突っ立ってないで、入ったら?」

そのイケメンなお兄さんに促され、私は慌てて店の中に入った。
空調が程よく効いていて暖かい。

「座りなよ」

そう言って指し示されたのは、テーブルを挟んでイケメンと向かい合う肘掛け椅子だった。
コートを脱いで恐る恐る腰を下ろせば、イケメンが不意に前屈みになり、テーブルに両肘をついて手の上に顎を乗せた。

「ふぅん」
「…な、何ですか?」

悪戯っぽいというか、意地悪そうというか。
妙な輝きを秘めた目に見つめられ、居心地が悪くなる。
でもイケメンはそんな私の様子に構わず、薄っすらと笑った。

「別に、何でもないよ。……それで?」
「………え?」

これまた急に身体を起こしたイケメンが、私に何かを聞いた。
けど、何を聞かれたのかが分からなくて首を傾げれば。

「え、じゃないでしょ。サプライズ、何にするの?」
「え……、あっ」

どうやらいきなり本題らしい。
しかも、何にするかなんて聞かれたって、それが決まらないからここに来たというのに。

「いえ、あの、それを相談しに来たんですけど…」
「相談って。あのね、僕は生憎、一から十まで全部考えてあげるほどお人好しじゃないんだよ。何をするつもりかぐらいは自分で考えてほしいんだけど?」

……どうやら私は、勘違いをしていたらしい。
この相談所は、サプライズを何にするか、という相談に乗ってくれる所ではなく、そのサプライズをいかに実行するか、という相談に乗ってくれる所らしい。

「その様子じゃ、全く何も考えてないみたいだね」
「えっと……、はい………すみません」

私が悪いわけではない気がするんだけど、なぜか謝ってしまう。
そんな私を見て、イケメンは大きく溜息を吐いた。

「まあいいよ。だったら今考えて。………はい、決まった?」
「そんなにすぐ決められるなら、そもそも悩んでないんですけど」

あまりに横暴な態度に思わず言い返せば、イケメンが可笑しそうに笑って。

「あははっ、そうだね。じゃあとりあえず、誰にサプライズしたいのか聞こうかな」

ようやく、なんだかまともな質問をされた。

「恋人、ですけど」
「恋人ね。名前は?」
「名前……って、言う必要ありますか?」
「参考になるかもしれないでしょ」

なんだか、すっかりペースを握られてしまっている気がする。

「で?たとえばどんなサプライズをしたいわけ?」

たとえば……。
………どうしよう、何て答えればいいんだろう……。


「ほら、何でもいいから早く答えてくれないかな」




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