溶けて流れて、[1]R-18性行為の在り方に対する所見というものは、千差万別だと考えられる。
最終目的は、ヒトという種の子孫を残すことにあるのだろう。
だが日本というこの国の現代社会において、子を成すことは確と定められた義務ではない。
よって、性行為に付随するその他の所産もまた、受け止め方は人それぞれだ。
俺としては、そこに両者の合意があり他者の迷惑とならぬのであれば、如何ような方法を以て性交が行われても問題はないと考えている。
個人的には一方に苦痛を強いるような方法は好まぬが、嗜好というものは十人十色だと理解している。
男女では身体構造に決定的な相違がある故、最終的な形態は覆しにくいが、そこに至るまでの過程はそれこそ個人の自由だ。
性行為に男女の優劣など存在せぬし、どちらがどのような役割を担っても問題はない。
とは、思うのだが。
自らに当て嵌めて考えた場合、この見解には少しばかり己でも納得しきれていない部分があることを認めざるを得ない。
決して、男が女性よりも優勢であるべきだとは言わぬ。
力を以て女性を従わせるなど言語道断であるし、女性が一方的に受け身であるべきだとも思わぬ。
だがその真逆という状況は、男として受け入れ難い事象に他ならなかった。
念の為に確認しておくが、俺は決してナマエが行為に対し積極的であるということに対して不平を呈しているわけではない。
ナマエが俺を求めてくれることは至上の歓びであるし、一般に女性よりも男の方に顕著と言われる性欲を有する俺に文句一つ言わず応えてくれるところもまた愛おしく思う。
だが、だからといってナマエに一方的に翻弄されることが本意かと問われれば、答えは否だ。
決して嫌だというわけではない。
だが、男としての矜持がそれを恥ずべき状況だと認識していた。
己が一方的にナマエを組み敷きたいとは思わぬ。
だが、その逆もまた受け入れ難い。
出来ることならば、均衡した力関係を保っておきたかった。
風邪を引いては困るからと、共に入った風呂。
何がナマエのスイッチを入れたのか、一方的に攻め立てられた行為。
先刻は、ナマエが優位に立っていた。
これを平等にするには、どうすればよいのか。
答えは至極単純明快だ。
二度目は俺が、主導権を握ればよい。
背後で、ドアの開く音がした。
振り返った俺がどのような目をしていたのか、引き攣ったナマエの顔を見れば一目瞭然だった。
「………えっと、私、先に明日の朝ごはんの下拵えしてこよ、」
「ナマエ」
不自然な笑みを浮かべたナマエが上擦った声で繰り出した言葉を、途中で遮った。
回れ右をして寝室を出て行きかけたナマエが、身体を強張らせて俺を見る。
「案ずるな。明日の朝食は俺が用意しよう」
ゆっくりと足を進め、ナマエの前に立った。
左手を伸ばし、ナマエの背後にあるドアを閉める。
「いや、それは悪いよ。私が作るって。だからほら、先にちょっと下拵えを、」
「ナマエ」
僅かばかり上体を屈め、焦った様子で捲し立てるナマエに顔を寄せた。
真っ直ぐに見つめれば、漆黒の瞳が彼方此方を泳ぐ。
その様をしばらく堪能してから、ゆっくりと唇をナマエの耳元に近付けた。
「無用な心配だ。どうせ明日の朝、あんたは立てぬだろうからな」
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