01

私は今日からミルス・クレア魔法院に編入してきた。

大好きなおばあちゃんのような素敵な魔法が使えるようになるのが夢で、魔法学校に通っているんだけど………いつも失敗ばかりしちゃって、学校での私は、いわゆる問題児ってやつだった。

困り果てた学校の先生が、先生の母校でもある世界一の魔法学校…ミルス・クレア魔法院に相談して、私は転校することになったのがはじまり。


ミルス・クレアは魔法士たちの憧れの学校で、魔法士を目指す人なら誰でも知ってる有名校。

もちろん、私もミルス・クレアの名前は知っていたからすっごくドキドキしながら門をくぐった。

ここにくれば、私の魔法も誰かが幸せに…笑ってくれるような素敵な魔法が使えるようになるって期待に胸躍らせていた。


だけど、ここにきて私に知らされたのは、とても衝撃的なものだった。


【無垢なる者】ってなに?
無属性って…どういうこと?
みんなが当たり前のように持っている属性が私にはないってこと……?
私がいつも魔法を失敗ばかりしちゃうのは……属性がないから?
でも、魔法を使うには属性がないとちゃんと発動できないって………。
あ、れ…?それって私、魔法使いになれないって、ことなの……?

今の私の顔はきっと青白くなっていると思う。
血の気が引く、ってこういうことを言うのかな……体の震えが止まらない。
私はごくりと口の中に溜まった唾液を飲み込んで、震える唇を叱咤しながら、ゆっくりと言葉を吐き出した。


「あの……、どうしても、属性がないとダメなんですか……?私、……魔法使いになれないんですか?」

「あら?なくても魔法は使えてよ?」


え……?


「本当ですかっ!?」


ヴァニア先生の言葉に私はバッと俯いていた顔をあげる。


「現にあたくしやそこにいる愚兄には属性などありませんもの。……もっとも、純粋なただの人間であるあなたはどうかは知りませんけれど」

「う……、それって結局属性がないとダメってことですよね………?」


私はがっくりと肩を落とした。
これからどうすれば良いんだろう……?
だんだん目頭が熱くなってくる。
すると、くすくすとヴァニア先生に笑われた。


「ふふふ……、泣きそうな顔ですわね。少し脅かしすぎてしまったかしら?」

「え……?」

「脅かしたわけではない、事実じゃ。……我輩は、道が絶たれたとは一言も言っておらぬだろうて」

「安心なさい。あたくしの知る限り、一生を【無垢なる者】として生きた者はそういませんわ」


優しい声を掛けながら、綺麗な微笑みを浮かべる先生に、強張っていた体に自然と力が抜けていく。


「大抵は、成長と共に何らかの属性を身につけるはずですし、その後立派な魔法使いになった者もいたかと」

「本当ですか!?それじゃあ……!」


うれしくて思わず声が上擦った。
キラキラと期待を込めた視線をヴァニア先生からイヴァン先生へと移し、見つめる。
イヴァン先生は視線が合うと、応えるようにゆっくりと頷いた。


「そなたはこのミルス・クレアにて、己の属性を探すのじゃ。そのための知識、経験を得るのに、ここほど適した場所はなかろうよ」


言われた言葉に、これで大丈夫だと安心してホッと息をはくと、「安心するのはまだ早くてよ」と声を掛けられた。

私は、どうしてですか?とヴァニア先生に視線を向ける。


「もし、あなたが属性を得られなければ………あたくしたちはあなたの魔力を封印し、今後一生、魔法が使えなくなるようにするしかないのですからね」

「え?ど、どうしてですかっ!?」


「無属性の歪んだ【律】で魔法を使うことは危険だからじゃ」


私の言葉に、イヴァン先生は淡々とした口調でぴしゃりと切り返す。


「今は笑って済ませられる失敗だから良いものの、この先知識を身につけ、もっと大きな魔法を発動させた場合、……最悪の事態も想定できる。それを見過ごすわけにはいかんのでな」


我輩たちはミルス・クレアの守護役なのでな、と呟くように言われる言葉に、自分がどれだけ危ない存在なのかが少しだけ理解できた。
難しい話はあんまりわからないけど、つまり私は、属性を得なければ、永遠に魔法使いにはなれない。
そういうこと、なんだ。


急にしーん、と辺りの空間が静まりかえったように感じる。
これから大丈夫なのかなあと再び不安になっていると、こんこん、と控えめなノックの音がホールに届く。
それにイヴァン先生が、「おお、入れ」と声をかけると小さな音をたてながら扉が開く。
その向こう側から入ってきたのは私と同じ、ミルス・クレアの制服を身につけた女の子。
彼女はゆっくりと私たちの方に向かってきて、先生たちの前に並ぶとお辞儀をし、くるりと私に向かい合った。


「そなたには明日より己の属性を見つけてもらうことになるのだが、期限がある」

「期限、ですか?」

「うむ。期限は明日より半年の間とする」


半年…?
どうして半年なんだろう?


「もっと期限を長くしちゃダメなんですか?」

「言い方が悪かったかしらね。属性を探すまでの期限はあなたの誕生日まででしてよ」

「私の誕生日…?」

「さよう。そなたはあと半年で16になると聞く。人間の歳で16になるともなれば大人と認められる歳になったということ。16の大人になって、そなたが無属性のままだというのなら、…もう自分の属性が変わる見込みはないと我輩は捉えておる」

「……まあ、いきなり半年の間に属性を見つけろなんて言われて、あなたも大変でしょう?そこで、少しでもあなたの属性が見つかるように、こちらからサポート役をご用意致しましたわ」


サポート役……?
私は首を傾げながら、もしかして、と先生達の隣にいる女の子に目を向ける。


「こやつの名はルミア。……そなたと同じく無属性の者じゃ」


えっ!?
私以外にも無属性の子がミルス・クレアにいるの………??!
私は驚いて目をぱちぱちとさせていると、ふふふ、と優雅な笑い声がする。


「驚くのも無理はなくってよ?無属性の者なんてそういませんもの」

「じゃが、こやつは少々そなたとは事情が違う」

「……?事情が、違う……?」


私の言葉にイヴァン先生は頷くと、女の子…ルミアと紹介された子をいちべつする。


「この者はそなたと違って、魔法を使っても律が歪むことはないのじゃが、」

「え!?でも、さっき無属性だと基盤の属性がないから正しく魔法が発動しないって……」


私はさっき自分に言われたことをちょっとあやふやだけど、覚えている。
無属性の人間が使う魔法は危険なのだ、と。
でもあの女の子は違うってどういうことなんだろう……?


「ええ、確かに先程あたくしたちは言いましたわ。ですが、その答えも先程あたくしは言いましてよ?」


え…?
答えはもう言った……?


「そこにいる彼女はあなたのような純粋なただの人間ではありませんの」

「異種族婚で生まれた者じゃ。最近ではさほど珍しい存在ではあるまい?」

「異種族婚……?」


その言葉を知らないわけじゃない。
私の故郷にも、異種族婚の子はいたもの。


「この魔法院には世界中の魔法や不思議が集まっておる。こやつのような混血児は、この魔法院にごろごろとおるわ。まあ、その話は置いとくとして」


ゴホンっとひとつ咳ばらいをし、先生は言葉を続ける。


「明日より5日間、そなたには特別授業を受けてもらう」

「と、特別授業…ですか?」

「ええ、特別授業ですわ。この5日間であたくしたちがあなたに基礎の基礎をビシビシ叩き込みましてよ。まさかとは思いますが、世界一の魔法学校と誉れ高いミルス・クレア魔法院が、地方の魔法学校と同じレベルだとは………お思いではないでしょう?」


う……、確かに、ここミルス・クレアは魔法士を目指す学生にとっては憧れの場所。
地方の魔法学校と同じような授業をしているはずもないし、なにより、前の学校でさえあまり優秀な成績をとっていたわけじゃないんだもの。


「しかし…明日より五日間特別授業を開始してそなたに基礎を叩き込むことにするにしても、だ。些か不安が残るのでな、何かあったらこやつに頼むと良い」

「彼女はあなたと同じ無属性なのですから。きっとお互いに何かしら得るものはあるんじゃないかしら。…ふふ、仲良くしてあげてね?」


私は手にした杖を、ぎゅっと握りしめる。


「はいっ!…私、頑張ります!いっぱいいっぱい勉強して、自分の属性を見つけてみせます!だから…、よろしくお願いしますっ」


2人の先生は、私の言葉に満足げに頷いた。

それを見てから私は、ルミアの目の前に行き、手を差し出す。


「初めまして!私、ルルっていうの。よろしくねっ」


私の差し出した手に、彼女は目を見開いて私の顔と手を交互に見る。

そして、私の手をおそるおそる握った彼女は、ぎりぎり聞き取れるくらいのとても小さな声で私に挨拶をしてくれた。

私は新しく友達が出来たのが嬉しくってにっこりと笑うと、彼女は戸惑ったように何度も視線をさまよわせてから、私に視線を合わせ、小さく微笑んだ。



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