18

ざくざくと土の感触が歩くたびブーツ越しに体を伝う。
そして慣れ親しんだ道を迷い無く進んでいくと、目的の場所についた。
見渡す限りの自然美が私を包む、見晴らしの良い広場。
人がつくる喧騒も雑音もない、自分が自然と溶け込むように一体となれる場所だ。

大きく伸びた木々は日差しを柔らかい木漏れ日に変え、力強く伸びた草花はやさしく吹く風に揺られて緑の匂いを淡く放っている。
手付かずの自然が持つ生々しいくらいに輝く命を見ていると、とても心が安らぐ。
無意識に力んでいたらしい体中の力が抜けていく感覚がするけれど、気にしない。
私の体質……というより私の性格もあって、やっぱり周りに人のいない環境がとても心地よかった。

見渡す限り緑に囲まれているここは、一般生徒は特別な許可がないと入ってはいけないとされている場所……学院の裏山だ。
この街に来た頃からこの山にはよく足を運んでいたため、もうここは私の庭と呼んでもいいくらいに馴染み深い。

私は一本の木の根元のもたれ掛かるように座り込む。
すると辺りの茂みがガサガサと音を立てて大きく揺れたかと思えば、すぐに音を立てたものの正体が目の前に飛び込んできた。


「久しぶり、だよね……みんな」


現れたのは、小鳥、猫、兎、鹿、狐……この山に住むたくさんの動物たちだった。
私が手を伸ばして触れようとすると、向こうから体を擦り寄せてくる。
撫でているのは私のはずなのに、全身を取り囲んで構ってほしそうに擦り寄ってくる彼らに、こっちが擽られているようで私は身を捩らせる。
久しぶりの再会に、嬉しいと思っているのは私だけじゃないんだなって思うと胸の奥から温かい感覚がじわじわと広がった。
これは知ってる。


「むず痒くて恥ずかしくて、でも嬉しいと思っている……。みんなに会えて、私、嬉しいんだ……」


周りから聞こえるのは草木が風に揺れて奏でる音楽と、再会の喜びを伝える言葉。
やっぱり落ち着く。
ここが私の居るべき場所なんじゃないかって思ってしまうくらい、私の気が安らいでいる。


「……やっぱり、血、なのかな……?」


よしよしと膝の上で丸まっている子兎を撫でながら、呟く。
小さい頃からそうだった。
私は街より森のほうがとても居心地がよくて、人より動物のほうが話やすくて、……ずっと森の中で暮らしていたいくらいに自然に包まれている環境が好きだった。
魔法院に入ってからというもの、休日の日はほとんど森の中で過ごしていたし、それが当たり前の感覚だった。
ここに住む動物たちが私の友達で、家族のようなかけがえのない存在だった。

私がこの森に来たのは随分と久しぶりで、どうしてずっと来なかったのだろうかと思い返してみればすぐに一人の存在が脳裏を掠める。


(彼女――ルルさんが私を変えた……?)


たぶん、それは思い過ごしなんかじゃなくて紛れも無くそうなのだろう。
蝕むように大きくなっていた彼女の存在。
私の気づかないところで、変わっていた日常。
ううん、気がつかなかったんじゃない。
気づかないようにしてたんだ、私――。


(依存、しようとしてるの……?)


考えただけで、とても頭がくらくらする。
私はいつのまにか、彼女の色に染められていたんだ。
何色にも染まることのできない私が?
真っ白で無垢な彼女に?
でも間違いない、私の色は確実に侵されていたんだ。


「……私、どうすればいいんだろうね。誰かに縋りたくないのに……」


綴ったって、離れていくのに。
依存なんてしてしまったら辛いだけだ……私も、ルルさんも、どちらも。
なにより、彼女の迷惑にはなりたくない。
だから依存なんてしたくない。


「強く、ならなきゃいけないのに……。早く、一歩、踏み出さなきゃいけないのに……っ、私はどうして…………」


どうして、こんなに弱いんだろう。
今だって、もしルルさんが傍にいたら綴っていたかもしれない。
自分の知られたくないこと、触れられたくないことは全部黙って隠して、都合のいい時にだけ頼ろうとしてる。
情けない……というより、ずるい。
そんなことしてても、意味なんてないのに。
私の中に渦巻くどろどろしたこの気持ちをもし彼女に知られたら、きっとルルさんは私から離れていってしまう。


「ラギくんやエストくんも……きっと……、」


こんな私を知ったらいつものように叱ってくれるどころか、離れていくに決まっている。
どうすればいいのだろうか、なんて知らないふりは出来ない。
だって解決策は、最初から用意されているから。


「…………決めなきゃ、早く……」


それが自分のためにも、依存される彼女のためにも、最善な解決策なのだから。


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