「 3 」

「きっと、あんたは、愛を知らないんだ。それに、自分の価値を知らない」
 胸に沁みこむ彼女の声。
「自分に自信がないから、相手に好かれるためには、ものを与えたりとかしないといけないと思っているんだろう。無条件に自分を愛してくれるって、自信が無いからさ。自分に価値が無いと思っているから、ものを与えて気を引きとめておこうと思っているんだ。ものが無いと自分を愛してくれないって。愛される価値なんてないって」

 彼女が何を言っているか、なんとなく分かる。
 でも、それが自分に当てはまるかは、分からない。

 彼女に顔をうずめたまま、答える。「おれは、自分に自信がないわけじゃない。おれは、里で一番の忍びだと自負している。実績もあるし」
「ちがう。そういう自信じゃない。業績とか聞いてるんじゃないよ。おれは、あんたが、自分には愛される価値があるかどうか、って聞いているんだ」
「無いと思っている。人柱力だし、殺人が生業だし、それに、そもそもおれは愛とかそういうのは要らないと思っている」
「ほら、」彼女が笑ったのが分かった。「あんたは大バカ者だな」

 抱き合っていた形から、体勢を変えられた。
 彼女が一旦ナルトの身体を離し、だっこして向かい合う形にした。
 ナルトの両脇の下に置かれた手。
 彼女の太ももを挟むように置いてあるナルトの両膝。
 間近で見つめ合う、お互いの目。
 彼女の瞳に、緊張した面持ちの自分がうつっているのを見たナルトは、無理やり、馬鹿にしたような笑いを顔に貼り付けた。

「ハン、大バカ者だって? それを、内海、お前が言うか? ずっと、」唇を噛む。「男だと偽り、友人ヅラしていたお前が!」
「偽っていたわけじゃない。おれは男だ」
「女じゃねぇか」
「そう、」彼女は微笑する。「あんたの前では、女になってあげてもいいよ。女になるなんて絶対いやだって思ってたけど、でも、最近は、それもいいかなって思ってきたんだ」
 そう言って、彼女は彼の頬を両手で優しく包む。

「女なら、こういうこともできるからね」

 彼女が目をつぶったと思ったら、間もなく、唇に触れた柔らかな感触。
 突然のことに麻痺するナルト。
 目をあけてから、悪戯っぽく微笑む彼女。「あ、男でもできたかな?」

 咄嗟に彼女の両肩を突き飛ばした。しかしすぐに彼女に拘束される。「逃がさないよ」
「ふざけるな、離せ、クソ! 内海!」
「離さないよ」
 口をゴシゴシ袖で拭きながら言う。「どうしてこういうことをするんだ」
 
 なんでもないことのように、彼女は笑顔のまま言った。
「そりゃ、あんたを愛してやるよってことだ」
「は?」
 彼女がククッと笑う。女性らしからぬ、男性的で、挑発げな笑み。
「愛されることに慣れていないあんたを、愛してやるって言ってるんだよ、うずまき。このおれがわざわざ女として愛してやるって言うんだ、光栄に思えよ」

 その彼女の笑みは、彼女が男だったときにときたま見せた、ゾクリとさせる、猛禽類のごとき鋭い危険を孕むものだった。内海は普段は優しげに微笑むが、たまにこういった男性的であやうい挑発げな笑みを見せていた。――ナルトが一番好きだった笑みだ。

 今またその男性的な笑みを見たナルトは、しばし考えた後、間もなくニヤリと笑い返す。

「ふん、やはり、お前はお前だな、内海、」

 そのまま彼女の身体を押し倒した。

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