「 第2話 それでも俺は男だ 1 」

 裕也は絶句していた。
 ここまで驚いたことはあっただろうか。声も出ない、とはこのことだ。
 場所はトイレ。ガチャガチャと音を立ててベルトを外した裕也が目撃したものは。


「……嘘だろ……」


 有るはずのものが無かった。





第2話 それでも俺は男だ







 時をさかのぼること30分。
 彼らは森にいた。

 ――あー、おれ、柄にもなく本音を言ってしまったぜ…、事なかれ主義だってのに。おれ、本当に殺されちまうのかな…どうにかなんないかな…。

 そんなことをぼんやりと考えていたら、鳥が飛んできた。随分綺麗な飛び方だ。調教されたような。その鳥が狐空の肩に止まった。クチバシに何かをくわえている。紙だ。
 それを開いたときの狐空の顔は、無表情だった。一言「あのジジィ……」と呟きその紙を青い炎で燃やした。ライターも無いのに。

「火影様が、お前を取り敢えず生かしておけ、だとよ。ま、お前はすばしっこいだけで、全く危険じゃないから、(いまは)生かしておいてやるよ。もし何かあったら俺が瞬殺してやるし」


 そう(苦々しげに)狐空に言われたとき、裕也は心の中で盛大にガッツポーズしていた。
 なんだかよくわからないけど、狐空青年を懐柔できた。これは明らかにラッキーだった。
 内心ほくそ笑みながら「ありがとうございます」と柔らかく言う。

 さらに狐空青年によると、彼らは任務中だったらしい。なんだか敵が姫を狙っているから、少女が姫に扮装して、敵を充分引き付けた後に狐空が殲滅する予定だった、と。(狐空は「そんなまどろっこしいことしなくても、俺なら3秒で全滅させてたけどな。ただ、コイツの訓練に、そういう方法をとったんだ」と付け加えていた。)
 しかし、そこに、裕也が来てしまった。
 つまりは、裕也は無駄に”姫様”を守っていたわけだ。死ぬ覚悟までしたのに。

 ――なんだか、この人たち、凄いことしてるんだなぁ。一昔前の日本みたい。

 無表情のまま、狐空は裕也に向き合った。


「しばらく里のボロアパートに住むことになるけど、いいのか?」

「……里に?」裕也はキョトンとする。

「嫌なら嫌って言え。すごくオンボロだぞ。隣にはクソガキが住んでるし。『嫌がったら違う場所に住まわせる』って書いてあるから」

「あ、いや、俺はすごく嬉しいですけど」


 瞬間、狐空に舌打ちされる。彼はどこからか紙を取り出し、乱暴な手つきで返事を書き、鳥に渡した。
 裕也は微笑む。しかし心の中では混乱していた。
 ――『住む』? 待てよ、俺は学園に寮があるんだけど。

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