「 5 」

 しばしの逡巡を見せた後、ナルトはにっこり笑った。「いいってばよ! 火影のじっちゃんも兄ちゃんのこと気にしてたし、一石二鳥だってば!」

「ホカゲサンがおれのことを?」

 『つかホカゲって誰?』とは聞かない。里の住民と話しているうちに分かったのが、どうやらそのホカゲとやらは『誰もが知っている常識』らしく、知らない奴はまず非国民だと思われるだろう。これ以上あやしまれたくない。『ホカゲって誰?』はタブーに違いない。本当はそれとなく聞き出したいがまずいことを言ったら即死刑だと思うので言えない、聞けない。

 そんなことを笑顔の裏で思っていると、ナルトが裕也の前で背を向け、しゃがんだ。おぶされ、という感じである。(いやまさかこのおれがこんなガキにおんぶされるなんて有り得ないけど。)
 ナルトは背を向けたまま、チラッとこちらを見上げてくる。

「さ、乗って!」
「え?」

 ほんとに? あんた本当におれをおぶるの?
 ナルトは急かすように自身の背中を叩いた。

「俺の背中に乗れってばよ! 俺ってば急いでるんだぜ。兄ちゃんみたいな一般人がチンタラ走るのを待ってたらもっと遅くなっちゃうってばよ」
「…」

 ああ、そういうことですか。忍者様は走るのも速いんですね。

「…走るの遅いって言われたのは産まれて初めてだわ、」そう言って、屈辱ながら、自分よりも小さな背中の上に乗った。しかし、意外にも、思ったより小さくない。ああ、そういえば、トリップして年齢と体が小さくなったんだった。そう思い出した時にはもう走り出していた。ビュン、と、すごい風が顔にかかる。
「飛ばすってばよ!」と言いながら本当に飛ばしているナルトの背中で、裕也は驚きに目を見開いていた。速過ぎて周りの景色の流れが見えない。
 凄まじい空気抵抗に、裕也は思わずナルトにしがみついた。
 まるでおれは、バイクで彼氏の背中にしがみつく女みたいだ…。

 ――なさけねぇ…

 心からそう思った。


end

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