「 第8話 内海の職探し1 」
*裕也視点
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第8話 内海の職探し
「ごめんね、内海くん…」というおばさんの声を背に、裕也は後ろ手に店先の戸をガラガラと閉めた。
ここも、だめだった。
戸籍がないと職は得られないらしい。持ち前の美貌でおばさんたちをたぶらかしてみても、そこはかたくなで、駄目だった。やはり、戸籍の無い、どこの誰とも知れぬ者を雇うのは、里の権力者によって罰せられる恐れがあるらしい。
5件目も駄目で、自嘲の笑みが漏れる。
「フッ、この世界ではおれもニートか…」
絶望のうちに空を仰ぐと、裕也の心のうちとは裏腹に、頭上の空は腹が立つくらいの快晴である。裕也の世界で騒がれていた『環境問題』など知らぬであろうきれいな自然の青空。
この世界に来て、狐空にアパートへ案内され、裕也のニート生活が始まった。
本当に、することがない。
もう、ほんと、朝が来て飯作って商店街に行って寝て朝が来て…の繰り返しである。まだ3日目であるがすでに裕也の限界が来ていた。
元の世界では裕也は生徒会も務める学園の主要人物であったので、日々忙しかった。常に何かをしていた。学園の行事の管理や問題の解決、そしてトップを維持していた成績。過去色々あり運動神経も人並みではなかったので運動会などの行事でもかなり活躍した。
それが、今は、何だ。
――学園の奴らが今のおれを見たら笑うだろう…。
裕也は頭を抱えた。
おととい、日々の空虚さに喘ぎながら思いついたのが、取り敢えず働こうということだった。
裕也は元々高校生だったが、ここには高校という制度はないようなので、学校に入ることはできない。代わりに忍者養成学校のようなものはあるらしいが、年齢的にアウトらしいし、忍者にはなる気も全くないので、選択肢から除外。すると、もう働くしかない。
働きながら、情報を集めて、なんとか元の世界に帰らなければ。
元の世界に帰ろうと思うと、ふと、頭をよぎる人がいる。
寂しい目をした少年。
狐空という名で惨殺を繰り返している少年。
虚勢を張り、他者を排斥ながら、心の奥では泣いているような人。
――昔のおれを思い出す。
あいつをあのままにしてこの世界から去ってもいいのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かぶ。
ほうっておけない、と思った。
なんとかしてやりたい、守ってやりたい、と思った。
あいつのつらさは、おれも、少しだけかもしれないけど、分かる。だから、放っておけない。
でも。
元の世界にも大切な人がいる。彼らはおれの帰りを待っているだろう。
おれも、おれの居場所はあそこだと思っている。
この世界は、おれの居場所じゃない。
ただ、気になる奴がいるだけで、おれの居場所ってわけじゃない。
帰りたいという気持ち。
でもあの少年をなんとかしたいという気持ち。
この二つの葛藤が、裕也の心を乱していた。
取り敢えず、この世界にいるうちは、あいつを守ってやりたい。
その後のことは、その時に考える。
これが裕也の出した、暫定的な結論であった。
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第8話 内海の職探し
「ごめんね、内海くん…」というおばさんの声を背に、裕也は後ろ手に店先の戸をガラガラと閉めた。
ここも、だめだった。
戸籍がないと職は得られないらしい。持ち前の美貌でおばさんたちをたぶらかしてみても、そこはかたくなで、駄目だった。やはり、戸籍の無い、どこの誰とも知れぬ者を雇うのは、里の権力者によって罰せられる恐れがあるらしい。
5件目も駄目で、自嘲の笑みが漏れる。
「フッ、この世界ではおれもニートか…」
絶望のうちに空を仰ぐと、裕也の心のうちとは裏腹に、頭上の空は腹が立つくらいの快晴である。裕也の世界で騒がれていた『環境問題』など知らぬであろうきれいな自然の青空。
この世界に来て、狐空にアパートへ案内され、裕也のニート生活が始まった。
本当に、することがない。
もう、ほんと、朝が来て飯作って商店街に行って寝て朝が来て…の繰り返しである。まだ3日目であるがすでに裕也の限界が来ていた。
元の世界では裕也は生徒会も務める学園の主要人物であったので、日々忙しかった。常に何かをしていた。学園の行事の管理や問題の解決、そしてトップを維持していた成績。過去色々あり運動神経も人並みではなかったので運動会などの行事でもかなり活躍した。
それが、今は、何だ。
――学園の奴らが今のおれを見たら笑うだろう…。
裕也は頭を抱えた。
おととい、日々の空虚さに喘ぎながら思いついたのが、取り敢えず働こうということだった。
裕也は元々高校生だったが、ここには高校という制度はないようなので、学校に入ることはできない。代わりに忍者養成学校のようなものはあるらしいが、年齢的にアウトらしいし、忍者にはなる気も全くないので、選択肢から除外。すると、もう働くしかない。
働きながら、情報を集めて、なんとか元の世界に帰らなければ。
元の世界に帰ろうと思うと、ふと、頭をよぎる人がいる。
寂しい目をした少年。
狐空という名で惨殺を繰り返している少年。
虚勢を張り、他者を排斥ながら、心の奥では泣いているような人。
――昔のおれを思い出す。
あいつをあのままにしてこの世界から去ってもいいのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かぶ。
ほうっておけない、と思った。
なんとかしてやりたい、守ってやりたい、と思った。
あいつのつらさは、おれも、少しだけかもしれないけど、分かる。だから、放っておけない。
でも。
元の世界にも大切な人がいる。彼らはおれの帰りを待っているだろう。
おれも、おれの居場所はあそこだと思っている。
この世界は、おれの居場所じゃない。
ただ、気になる奴がいるだけで、おれの居場所ってわけじゃない。
帰りたいという気持ち。
でもあの少年をなんとかしたいという気持ち。
この二つの葛藤が、裕也の心を乱していた。
取り敢えず、この世界にいるうちは、あいつを守ってやりたい。
その後のことは、その時に考える。
これが裕也の出した、暫定的な結論であった。
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