「 2 」
そいつの顔を見て、ハッと息をのむ。
くのいち全員が嫉妬するような、整っている顔立ち。全体的に優しげで柔らかく、女性的で可愛らしく、しかし同時に少年の凛々しさのようなものが同居しているような、美少女。
そして、なぜかは分からない衝撃が胸を突いた。
前述の通り、彼女の顔立ちは整っていた。『美しい』というよりも、誰からも愛されるような、甘い顔立ち。ぱっちり二重の双眸はタレ目で、それがますます甘さを引き出している。肩までの髪はくせ毛で、様々な方向に跳ねている。
『こいつは無害だ。』はっきりそう感じさせるような、優しげで、温和な顔立ち。こいつは悪いことなんて絶対にできない、そう確信させるような。
俺は術を紡ごうとしていた手を完全におろしてしまっていた。
彼女を凝視したまま思わず歩みを止めてしまった俺へ、
彼女は微笑んだ。
ゆっくりと。
花がほころぶように。
もともと優しげだった大きな双眸を笑みに細め、こちらの警戒心をすべて吹き飛ばしてしまうような、甘く優しいほほえみ。
彼女の長い睫毛が白皙の肌へ影を落としている。
風に乗せられ、彼女の馥郁たる甘い香りが鼻腔をかすめる。花の香りのような、お菓子の香りのような、甘く心地好い香り。
本当に、何から何まで蜂蜜のような子だ。
しかし、一方で、彼女のとびきり甘く優しげなほほえみは、ただ優しく甘いだけではない。可愛いとか美しいとか整っているとかそういうのを通り越して、いっそ性的で、蠱惑的な、男を惑わせるような倒錯した色気を孕むもの。
不覚にも心臓がドキリと跳ねる。
どうしてかわからない。どうしてわからないのかもわからない。こんなことは初めてだ。苦しくなって胸を抑えたまま立ちつくす。
彼女は、おれに微笑みをくれた後、おれに向かって一歩を踏み入れた。
来る。
鼓動が速くなる。
もともと少なかった彼女との距離が、ますます縮まる、無くなる。
彼女の顔がグッと近づけられた。
大きな目を縁取っている睫毛の一本一本が目視できる。髪と同じ色の胡桃色で、陽光を受けてもっと明るい色に見える。
ドキリとして思わず後ずさる…いや、後ずさろうとしたが、情けないことに、できなかった。動けなかった。それこそ俺自身が『影縛りの術』にあったように、なぜか、全く動かなくなってしまったのだ。
さらに鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を近づけられた。彼女の大きな深い瞳の中に、目を見開いた俺が写っている。
そして、むせ返るような、彼女の甘い匂い。これで確信した。彼女は忍ではない。こんな香り撒き散らしては忍べないだろう。
――では、この感覚はなんだろう?
すごく緊張したり、心臓がバクバクするのは、他国の忍への警戒心ではなかったのか? 相手が一般人なら、警戒するまでもないはずだ…。
――もしくは、じゃあ、おれは、どこかで…?
でも、もし一度見たことがあるのなら、おれが思い出せないはずがない。
間近にある彼女を意識すると、理屈より先に暴走し始める己の心臓が不可解だった。
くのいち全員が嫉妬するような、整っている顔立ち。全体的に優しげで柔らかく、女性的で可愛らしく、しかし同時に少年の凛々しさのようなものが同居しているような、美少女。
そして、なぜかは分からない衝撃が胸を突いた。
前述の通り、彼女の顔立ちは整っていた。『美しい』というよりも、誰からも愛されるような、甘い顔立ち。ぱっちり二重の双眸はタレ目で、それがますます甘さを引き出している。肩までの髪はくせ毛で、様々な方向に跳ねている。
『こいつは無害だ。』はっきりそう感じさせるような、優しげで、温和な顔立ち。こいつは悪いことなんて絶対にできない、そう確信させるような。
俺は術を紡ごうとしていた手を完全におろしてしまっていた。
彼女を凝視したまま思わず歩みを止めてしまった俺へ、
彼女は微笑んだ。
ゆっくりと。
花がほころぶように。
もともと優しげだった大きな双眸を笑みに細め、こちらの警戒心をすべて吹き飛ばしてしまうような、甘く優しいほほえみ。
彼女の長い睫毛が白皙の肌へ影を落としている。
風に乗せられ、彼女の馥郁たる甘い香りが鼻腔をかすめる。花の香りのような、お菓子の香りのような、甘く心地好い香り。
本当に、何から何まで蜂蜜のような子だ。
しかし、一方で、彼女のとびきり甘く優しげなほほえみは、ただ優しく甘いだけではない。可愛いとか美しいとか整っているとかそういうのを通り越して、いっそ性的で、蠱惑的な、男を惑わせるような倒錯した色気を孕むもの。
不覚にも心臓がドキリと跳ねる。
どうしてかわからない。どうしてわからないのかもわからない。こんなことは初めてだ。苦しくなって胸を抑えたまま立ちつくす。
彼女は、おれに微笑みをくれた後、おれに向かって一歩を踏み入れた。
来る。
鼓動が速くなる。
もともと少なかった彼女との距離が、ますます縮まる、無くなる。
彼女の顔がグッと近づけられた。
大きな目を縁取っている睫毛の一本一本が目視できる。髪と同じ色の胡桃色で、陽光を受けてもっと明るい色に見える。
ドキリとして思わず後ずさる…いや、後ずさろうとしたが、情けないことに、できなかった。動けなかった。それこそ俺自身が『影縛りの術』にあったように、なぜか、全く動かなくなってしまったのだ。
さらに鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を近づけられた。彼女の大きな深い瞳の中に、目を見開いた俺が写っている。
そして、むせ返るような、彼女の甘い匂い。これで確信した。彼女は忍ではない。こんな香り撒き散らしては忍べないだろう。
――では、この感覚はなんだろう?
すごく緊張したり、心臓がバクバクするのは、他国の忍への警戒心ではなかったのか? 相手が一般人なら、警戒するまでもないはずだ…。
――もしくは、じゃあ、おれは、どこかで…?
でも、もし一度見たことがあるのなら、おれが思い出せないはずがない。
間近にある彼女を意識すると、理屈より先に暴走し始める己の心臓が不可解だった。