「 第6話 奈良シカマル 1 」



 裕也は少女と真正面から向き合った。
 彼女は上半身裸だった。裕也も裸。

「……?」

 裕也は低血圧だ。寝起きのいまは頭がよく回らない。ベッドからようやく這い出てからかれこれ20分、薄く開いた目で少女の姿を凝視している。少女も少女で、薄く開いた双眸で裕也を凝視している。
 淡い茶色の髪は毛先にゆくほどクセが強く、彼女の端正な顔を優しく包んでいた。そう、彼女の容貌は整っている。筋の通った鼻、長い睫毛に縁取られた大きな目、桃色のふっくらしたくちびる、白皙の肌。目は垂れ目で、甘い感じを引き立ている。顔も綺麗だし、体つきも綺麗だ。四肢はすらりと伸び、その先の手足も細い(が、筋肉も薄くついている)。丸みを帯びた肢体。胸下から腰へのゆるやかなカーブ。豊満とはいかずとも、そこそこに豊かな乳房。傷一つ無く、さらにミルクのように白い、肌理細かい肌。色が匂い立つように魅力的な身体の少女が、裕也と対峙している。
 明晰な頭脳をもつ内海裕也は、今回は事態をはかりかねていた。
 朝いちに裸の少女と対峙。相手の少女も呆然。
 一瞬、一瞬だけ、彼は「俺やっちゃったのかな」と思った。しかしその可能性はすぐに否定された。なぜなら、よくよく見れば、少女の顔が自分とそっくりだったからだ。低血圧の裕也はぼんやりとした頭で色々と思考した。すると或る考えにたどり着き、背筋に悪寒がはしった。
 少女に手を伸ばす。少女も手を伸ばす。
 二人の手が冷たい板を挟んで触れ合った。

「そうか、俺、女になったんだっけ」

 ぼそりとそう洩らせば、鏡の中の少女も同時にそう洩らした。




第6話 奈良シカマル


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