「 第4話 演技はやめてくれ 1 」


 台所に立つ俺は、機嫌がよかった。
 身体は女になったらしいけど、でも他は変わらない。
 相変わらず女受けがいいし、自慢の声も高くなっていないし、力も(多少は落ちたけど)あまり変わらない。
 元の世界へ戻るまで、俺はこのままやっていける。
 背後の少年の一人芝居を聞き流しながら、俺は安堵のため息をついた。




第4話 演技はやめてくれ





 食事中でも、まだ彼は喋っていた。


「そんでな、そんでな、俺は火影岩に落書きしてやるって言ったんだ! そしたらじっちゃんキレちゃってさ! でもあいつ、俺のお色気の術には弱いんだぜ?!」

「はいはい。でも口にもの入れながら喋るのはやめようなー」


 二人は裕也の部屋にいた。そこで、裕也の作った料理を食べている。
 『俺は料理は得意なんだ』と自負していた通り、彼の料理はとても美味しい。
 彼の食べ方は綺麗だった。流れるような動作。育ちの良さや気品に溢れている。それに比べ、ナルト少年の食べ方はかなり粗雑だった。音を立てながらスープを飲み干し、ご飯も掻き込みながら食べる。
 それを、笑顔の下で、裕也は冷静に観察していた。
 ――毒なんて入れてないって。
 少年は、食べ物を口に含む瞬間、さりげなく指を動かしていた。速過ぎてよく分からないが、おそらく印を組んでいる。普通の人は気付けない動作。たぶん、毒の有無でも確認しているんだろう。
 そんな物騒なことをやっていながらも、笑顔のナルト少年は喜々として自分の英雄伝について話す。彼の貧乏揺すりする足が、時々裕也の脚に当たる。
 ――いい加減、うぜぇな。
 甘い笑みを浮かべながらも、裕也は苛々していた。
 そんな彼に、ナルトは頬を膨らませて文句を言う。


「俺ばっかり話してて、俺兄ちゃんのことまだ名前しか知らないってば」

「俺のこと知りたいの?」

「知りたいってばよ!」


 顔を乗り出して来るナルトに、裕也は甘く笑いかける。砂糖を沢山溶かした水が グラスから溢れるような、柔和な笑み。


「いま俺が迷っていることを2つ教えてやるよ。1つは、あんたに野菜を食べてもらうにはどうしたらいいか。もう1つは、」


 言葉を区切り、頬杖をつく。


「もうひとつは、あんたのその下らない芝居にいつまで付き合えばいいのか、ってこと」



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