「 4 」
足速に通りを抜け、商店街に出た。
ナルトを中心に、同心円状に沈黙が拡がる。静かな商店街。ジロジロと向けられる視線は尖った氷のようだ。
小さくなっている少年に蜜のような微笑みを向ける。不安げに揺れる目を見る。
「あんたは俺だけ見てればいいから。周りは気にするなよ」
「……それじゃあ前見て歩けないってばよ」
「真面目に取るなよ。ただの比喩だって。本気で俺だけ見られたら、照れるから」
言いつつ、少年の肩を抱いて右に逸れる。一秒遅れて、ガシャン、と花瓶が落ちてきた。「おー、スリル満点。しかもちゃっかり肩抱けちゃってラッキー」とヘラヘラ笑う裕也。それを聞いたナルトにすぐ払われたが。
「俺、料理上手いからさ。今日はご馳走作ってやるよ」
「ホントだってば? じゃさ、じゃさ、俺、ラーメンがいいっ」
「ラーメン? 何かもっとグレイド高いやつにしておけよ。せっかく内海兄ちゃんに作ってもらえるんだぜ? 友達には『うちのシェフより腕がいい』ってよく言われたし」
「う、『うちのシェフ』?」
などと他愛ないことを話して歩く。
静かな商店街に、その会話はやけに奇妙に響いた。
ナルトは馬鹿みたいに明るいし、隣を歩く美青年(少年? 少女?)は優しげで。このピリピリとした空気のなかでは、とても浮いていた。
と、そのとき。
高校生くらいの少女(この世界に高校なんてあるのか不明だが)が2人、立ち塞がった。挙動不審だ。顔を赤らめ、窺うように裕也の顔を見ては、また地面に目を戻す。『飛び出したのはいいけど、その後のことは考えていなかった』というところだろう。
足を止めた裕也は柔和な笑みをうかべ、「なに?」と優しげに問い掛ける。甘い声。
これ以上にないくらいに赤い顔で、少女が口を開いた。
「あ、あの、アタシはコムギっていうんです。こっちはデンプン。で、あ、貴方のお名前は何ていうんですかッ?」
「俺? 俺は内海裕也っていうんだ、コムギちゃんにデンプンちゃん」
にっこり。
砂糖のような微笑みを直視した少女たちは、数秒間絶句した。しばらくして裕也が小さく首を傾げ「もう用は済んだの?」と聞くと、彼女達は蘇生し、もう一度口を開いた。
「こ、これから暇ですか? アタシたちと遊びませんか?」
「悪いけど、俺もう予約済みだから」
そう言って、ナルトの肩を抱き寄せる。
ナルトは蒼白した。
――ここで俺を出すなって!
しかし裕也は飄々と「ごめんねコムギちゃん」とうそぶく。ナルトの肩に置いた手の、指をタタン、タタン、とリズミカルに動かし肩を叩く。
ところがもっと顔を蒼白させたのは、少女たちの方だった。
「そっ、ソレうずまきナルトじゃないですか!」
「そうだね」
「ダメですよ! お母さんが言ってました。その子供は忌み物だから近づいちゃいけないって!」
「へぇ、そうなの」
キョトンとした裕也は、「なんで忌み物なの?」と尋ねる。複雑な表情のナルトの肩を抱いたまま。
少女たちは戸惑う。
「理由は、分かりませんけど、でも大人は皆言っています」
「理由もわからないのに、そんなこと言うんだ?」
「それは、でも、」
「もういいよ。俺、頭の悪いコ嫌いだから」
そう言ってまた蕩けそうに甘い微笑みを浮かべ、裕也はナルトを引っ張り、少女たちの脇を素通りした。最後に「じゃあね、コムギちゃんにデンプンちゃん。どっちがどっちだか分かんないけど」と甘い声を残して。