「 3 」
この嫌がり方は半端ない。
「放せって! 俺絶対イヤだってば! 金も要らないし、とくに兄ちゃんと一緒はイヤだってば!」
掴んだ手を必死に解こうとするナルト少年。
裕也は少年の左腕を掴み、ほぼ引きずる形で一緒に歩いていた。先ほど少年が道順を言っていたので、その通りに進む。
閑散としていた。とくに、少年の住むアパートを中心として、住宅が疎らだった。しかし商店街に近づくにつれ、賑やかになっていく。住宅も増え、それに比例して人通りも増える。
――それにしても。
裕也はあたりをそれとなく見渡す。
通行人の視線が冷たい。いや、はじめ裕也に向けられる視線は熱っぽいのだが、その後ナルトに下りた視線は凍る。氷のような眼光。排他的な環境。
裕也は学園を思い出していた。自分は生徒会役員で、もの凄い人気だった。すこしキャンパスを歩けば人込みができ、ニッコリと微笑んでやると皆顔を赤らめる。(……あー、うん、みんな男なんだけどね。男子校だから。)
ところがこれは、正反対だ。なんて寒々とした視線なのだろう。楽しく会話していたオバさんたちも、ナルトを見るとピタリと話をやめ、睥睨する。凍てつくような。
抵抗していたナルトも、いまは無言だ。地面を見ながら、とぼとぼと歩いている。腕を引かれるまま力無く。
裕也が握る手に力を込めると、ナルトはハッと顔をあげた。そして笑みを貼り付け、周囲に笑顔を送る。「よっ、魚屋のオバちゃん!」と手を振ると、そのオバさんは「ひっ」と顔を引き攣らせる。
「狐が!」
怒号。
魚屋の店主だ。凄まじい形相。憎しみに満ちた顔。
そちらに意識を盗られていると、背後から何かが飛んでくる気配がした。素早く振り向くと、石だった。拳大の石が投げ付けられた。
ナルトは気付いた様子はなく、魚屋の方を見ている。しかしさりげなく裕也の身体を押した。石に当たらないように。
裕也は眉間にシワを寄せた。
――なんで避けないんだよ。
肩に手を回し、グッとナルト少年を引き寄せる。直後、少年が立っていた場所で石が砕けた。明らかに頭を狙ったものだった。
「まぁ、デートらしく手でもつなごうぜ」
ヘラリと笑い、ナルトの手を握った。いままで腕を掴んでいたのだが、気が変わった。しっかりと指の股に指を絡め、優しく、しかし固く握る。