「 3 」
天井は低いし、狭いし、どことなくカビ臭いし、狐空は鍵渡したらさっさと消えちゃうし。
いろいろ不満はあったが、これ以上のものはない。これ以上のものはない。
裕也はトイレから飛び出て、風呂場に転がり込んだ。全身鏡に対峙する。
映っているのは、中学生くらいの子供。明るい茶髪は毛先にゆくほどクセが強く、軽い感じに跳ねている。ぱっちり二重の目は垂れ目で、優しい印象を受ける。甘い顔立ち。
身体は、小さくなっている。173cmあった身長が、だいぶ縮んだ。15歳のころに戻ったようだ。体つきも華奢になっている。肩も撫で肩になり、手足は折れそうなほどに細い。
それはもういい。アレが消えたショックに比べればどうってことはない。
裕也は服を脱ぎ捨てた。目をつぶる。深呼吸をして、目を開ける。鏡に映る自分を見る。
「……女の子だ」
丸みを帯びた身体。くびれた腰。
決定打が、胸。胸がある。いや裕也青年にも胸はあったが、そこに膨らみは無かった。どうやら、いままでダボダボの制服を着ていたから気付かなかったらしい。無視できないほどの大きさの膨らみがある。恐る恐る触ってみると、柔らかかった。未発達ながらも立派な乳房。いまの学園に入る前は、二股三股は当たり前だった裕也は、Cカップくらいだろうと推定した。
首から上は変わらないのに、下は女体。しかし全く違和感を感じさせない自分の顔にため息が出る。
内海裕也、身体が幼い頃に戻った上に、女になってしまいました。
「冗談じゃねぇぜ……」
絶望。
優秀な裕也の頭でも、こんなときの対処法は思い付かなかった。
寝て起きたら森の小屋の中。命を狙われ、助かったと思ったら殺人青年に拾われ、すぐに捨てられ、トドメは『女になってました☆』だ。無理だ。キャパシティーを超えている。
裕也は取り敢えず服を着た。しかしシャワーを浴びたくなったので、また脱いだ。やはり胸は消えない。
――馬鹿馬鹿しい。
鏡をなるべく見ないように身体を洗った。洗い場が狭くて苛々する。ボディーソープは無く、小さな石鹸のみ。名門の金持ち学園に住んでいた裕也は、ため息をついた。早速ホームシックになっていた。
つねに軽薄な笑みを携えている内海裕也は、無表情だった。
誰かに見られていればニコニコしているが、見る人がいなければ笑顔の意味はない。風呂から上がった彼は、粗末な椅子に座り、ぼんやりと壁を見ていた。しかし彼の頭は高速で回転していた。
――冷静に、現在の状況を分析するんだ。
そう、彼には冷静にならなければならない理由があった。『異世界にトリップしてしまった。』この結論に達してしまったからだ。
非科学的なものを信じない裕也にとって、それは受け入れがたいものだった。しかし、ふと英国で『異世界トリップをした男の話』という本を読んだことを思い出してしまい、そうか俺もトリップしたんだ、と考えてしまった。
有り得ない。
しかしこれ以外に何があるというのか。
「まぁ、まずは隣の『クソガキ』さんに挨拶に行くか」
裕也は立ち上がった。
end
いろいろ不満はあったが、これ以上のものはない。これ以上のものはない。
裕也はトイレから飛び出て、風呂場に転がり込んだ。全身鏡に対峙する。
映っているのは、中学生くらいの子供。明るい茶髪は毛先にゆくほどクセが強く、軽い感じに跳ねている。ぱっちり二重の目は垂れ目で、優しい印象を受ける。甘い顔立ち。
身体は、小さくなっている。173cmあった身長が、だいぶ縮んだ。15歳のころに戻ったようだ。体つきも華奢になっている。肩も撫で肩になり、手足は折れそうなほどに細い。
それはもういい。アレが消えたショックに比べればどうってことはない。
裕也は服を脱ぎ捨てた。目をつぶる。深呼吸をして、目を開ける。鏡に映る自分を見る。
「……女の子だ」
丸みを帯びた身体。くびれた腰。
決定打が、胸。胸がある。いや裕也青年にも胸はあったが、そこに膨らみは無かった。どうやら、いままでダボダボの制服を着ていたから気付かなかったらしい。無視できないほどの大きさの膨らみがある。恐る恐る触ってみると、柔らかかった。未発達ながらも立派な乳房。いまの学園に入る前は、二股三股は当たり前だった裕也は、Cカップくらいだろうと推定した。
首から上は変わらないのに、下は女体。しかし全く違和感を感じさせない自分の顔にため息が出る。
内海裕也、身体が幼い頃に戻った上に、女になってしまいました。
「冗談じゃねぇぜ……」
絶望。
優秀な裕也の頭でも、こんなときの対処法は思い付かなかった。
寝て起きたら森の小屋の中。命を狙われ、助かったと思ったら殺人青年に拾われ、すぐに捨てられ、トドメは『女になってました☆』だ。無理だ。キャパシティーを超えている。
裕也は取り敢えず服を着た。しかしシャワーを浴びたくなったので、また脱いだ。やはり胸は消えない。
――馬鹿馬鹿しい。
鏡をなるべく見ないように身体を洗った。洗い場が狭くて苛々する。ボディーソープは無く、小さな石鹸のみ。名門の金持ち学園に住んでいた裕也は、ため息をついた。早速ホームシックになっていた。
つねに軽薄な笑みを携えている内海裕也は、無表情だった。
誰かに見られていればニコニコしているが、見る人がいなければ笑顔の意味はない。風呂から上がった彼は、粗末な椅子に座り、ぼんやりと壁を見ていた。しかし彼の頭は高速で回転していた。
――冷静に、現在の状況を分析するんだ。
そう、彼には冷静にならなければならない理由があった。『異世界にトリップしてしまった。』この結論に達してしまったからだ。
非科学的なものを信じない裕也にとって、それは受け入れがたいものだった。しかし、ふと英国で『異世界トリップをした男の話』という本を読んだことを思い出してしまい、そうか俺もトリップしたんだ、と考えてしまった。
有り得ない。
しかしこれ以外に何があるというのか。
「まぁ、まずは隣の『クソガキ』さんに挨拶に行くか」
裕也は立ち上がった。
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