藍天鵞絨


たった半年でプロから身を引いた。
そんな生半可な夢だったのか、と親父に呆れられたけど、その眸を真っ直ぐに見つめ理由を言えるくらいには、覚悟を決めていた。
活躍できなかった訳でもなかった。寧ろ実績を上げ階段を昇っていく最中だったけど、野球は十分だと思ってしまったのだ。
それよりも、高校、大学とずっと離れていた中学時代の友人の方が気になった。
スクアーロからボンゴレが今大変なんだと聞いた。反発者や裏切りが後を絶たないと。
俺は守りたいんだ。親友を、仲間を、野球より大切な人達を。

立派な屋敷を見上げる。
ツナも偉くなったなーと思いながら、ブラックスーツに身を包んだ人に案内されるがまま広い敷地内を歩く。
……これ、場違いかな?俺、ネクタイも絞めないで、大学の卒業式に着たスタイリッシュスーツで来ちまったけど…。
うわ、獄寺に怒られそ……。獄寺の顰め面思い出して、にやけてしまう顔を咄嗟に腕で隠した。

「あの、大丈夫ですか?」
「え、ああ、大丈夫。悪いボーッとしちまって」
「いえ…。しかし驚きました。プロ野球で活躍していた貴方がまさかボンゴレ組員とは…」
「そっかなー、中学からけっこう関わってるから実感わかねーのな。あ、でもこんなデカイっつーのは驚いたな」
「まあイタリアでも有数の大組織ですからね、あ、こちらです」

親しみやすい案内人が扉をノックする。
はーい、という返事の後に、扉が開く。
ツナ自らのお出迎え。案内人は驚き、すみませんと一礼。ツナはにこやかにありがとう、下がっていいよ。と言って、案内人はスッと下がる。
穏やかで人当たりがいいのに、ツナはボスだった。
やっぱり相変わらず、すげー奴なのな。

「ごめんね山本、助かるよ」
「俺が決めたことだから、気にするなよ」

申し訳なさそうに笑うツナの肩を叩く。
そして、中学の時だったら、いつもツナの隣にくっついてたアイツを無意識に探してしまい、きょろりと辺りを見渡す。
ツナはクスクス笑った。

「獄寺君なら今から来るよ」

会えると聞いて、ホッとする。
会ってくれないんじゃないか、とどこか不安だった。

「あー俺、獄寺に怒られっかなー」
「あー、その格好のこと?」
「それもだけど、ここに来たこと……」
「怒る…かなあ?でも、俺より、山本がこっち側選ぶの反対してたからね獄寺君は」
「それ、右腕争いでだろ」

右腕は俺だと、何かとツナ関係で因縁つけてきてた14の獄寺を思い出す。
でもな、これは譲れねえよ。獄寺に怒鳴られようが突き放されようが、俺はここを選ぶけどな。
だって、嫌なんだよ。お前達だけが大変な状況で頑張ってるのに、俺が一緒に頑張れないのが。助けられないのは嫌なんだよ。
守りたい。近くで。俺のこの手で。

「違うよ。獄寺君なりの、君を守ること、だったんだよ」
「え……」

「失礼します。十代目」

扉が開く。
獄寺が顔を上げて固まった。
ああ、また一段と綺麗になったな、と思う。
その綺麗な瞳が一瞬、揺れた。そして、キッと俺を睨んだ。

「どういうことですか」

怒鳴られる、と思ったが、意外にもツナに静かに尋ねた獄寺。
ツナは、こういうことだよ、と冷静に答える。
清々しい程にボスと右腕だった。中学の時はごっこみたいな感じで、どっちかっていうと舎弟って感じだったけど。

「っ、俺は反対です。コイツにマフィアなんか務まりません」
「おいおい、そりゃひでえんじゃねえの?あんだけ一緒に闘ってきておいてさ」
「お前は、ごっこだったじゃねえか…なのに、」

ツナが、あとは右腕の君の判断に任せるよ、と部屋を出た。
ツナが部屋を出た、と同時に俺は胸ぐらを掴まれた。苦しくて眉を顰める。
今度こそ怒鳴られると思ったが、獄寺は俯いたままで、何でだよ……と小さく呟いた。
胸ぐらを掴む手が、ちいさく震えていた。
その手を、俺はそっと包み込んだ。

「俺だけが仲間外れなんて嫌だ」
「っ、から、ごっこじゃ、ねえんだよ…もう…」
「ごっこじゃねえよ。俺は、」

獄寺が顔を上げたのを見て、ぎょっと固まってしまった。
獄寺の眸には大粒の涙が張っていて、頬をボロボロと零れ落ちていた。少なくとも俺の記憶上獄寺が泣いてるとこなんて見たことない。

「ごく、でら……」
「高校も大学も野球バカだったじゃねえか、今更、なんでっ……」
「だって、ツナも、お前も、守りたかったんだ。それって野球なんかに変えられねえだろ…?」

頬を包む。指で涙を拭う。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
俺のために、泣いてくれている。
ツナの獄寺君なりに守りたかったんだ。という言葉を反芻する。

「俺だって守りてえんだ。お前達に守られてるばっかじゃフェアじゃねえよ」

それに答えるように獄寺に告げて、唇を噛み締めて泣く獄寺に、キスをした。
泣くなよ、獄寺。
俺はお前に笑っていて欲しいから。苦しませたくない。傷つけない為に来たのに。

「俺は、きっと今日を後悔する…」
「そんなこと言うなよ。後悔させないように俺、頑張るからさ」

やめろ、と小さく呟いて、また涙を流した獄寺に、俺はごめん、と謝って、またキスをした。
後悔することになっても、苦しむことになっても、人生棒に振ることになっても、俺は、お前の隣にいたい。

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