吹雪の道で出会ったアイツ | ナノ



吹雪の道で出会ったアイツ

 勢いよく飛び出した影は、200メートル程駆けた所で急ブレーキをかけた。

 大事な事に気がついたのだ。
 少女は、てもちを一匹も持っていない。

「あーあ。カッコつけて走ってきたのに、なんか、かっこ悪いなー」

 そうぼやきつつ、くるりと振り返る。
 来た道を全速力で戻る少女、ソノは、再び牧場を目指す。

 彼女はまだ居るだろうか。名前は聞いた、居なければ、近所の家を訪ね歩こう。
 しかしそんな心配も杞憂に終わる。ソノが探していた少女、チアはまだ、柵に寄り掛かってこちらを見ていた。

「あ、やっぱり戻ってきた」
「うん」
「だって、ポケモン持ってないもんね」
「つかまえ方を教えてもらったから、早く行かなくちゃ、って思って」
「あはは!ソノちゃん、せっかちさんー」

 ころころと笑う少女の前で、ソノはもじもじと視線を泳がす。

「それでな、チア。お願いがあるんだ」
「どうしたの、改まって」
「あのね、もういっかい一緒に草むらに行って、
 ポケモンつかまえるの、手伝ってほしいんだ」

 一人じゃ、捕まえられないから。
 そう俯くソノの頭上から、その必要はないよ!と明るい声が降ってきた。

「どーして?」
「いいからいいから。ちょっとこっち来てっ」

 チアに手を引かれ、牧場の坂を下ったソノは驚く。
 大きく広がる柵の中には、たくさんのポケモンが。

 よく知っているポケモン。
 本やテレビで、見た事のあるポケモン。
 そして、全然知らないポケモンまで。
 多種多様なポケモンが、そこには居た。

 のんびりと草を食んでいるもの。
 牧草を蹴って駆けているもの。
 群れになって、歩いているもの。
 それぞれが思うままに生活している様は、ソノが雪山で見てきた野生のそれとは、全く違うものだった。

「チア、これ……みんな、牧場でくらしてるのか?」
「そうだよ。この地方には生息していない子も、結構居るでしょ」
「うん。あっちの、茶色いギザギザのは、はじめて見た!」
「ジグザグマ、って言うんだよ。その奥に居るのは、進化形のマッスグマ」
「わあー!進化したら、真っ直ぐになっちゃうのか、不思議だなー……
 あっ!あっちの木で、糸垂らしてるのは!?」

 まるで、初めて動物園に来た子どものように。
 ソノの目は、あっちへ行ったり、こっちへ来たりと忙しい。

「この中には、あたしが捕まえた子もいるんだよ」
「へぇー、すごいな、チア。ほかくのプロ、ってやつだな!」
「えへへ。さっきの子は、ホウエン地方で捕まえたんだけどね……」

 自慢げに話す彼女は、そうだ、と思い出したように話を切った。

「ソノちゃん。好きな子、連れてって良いよ」
「え、いいの?」
「この牧場ね、レンタルもしてるんだ。例えば、移動手段にしたり、ヒトじゃ出来ないお仕事を頼んだり」
「ほんとに、いいの?」

 わたし、まだ子どもだよ。それに、ポケモン持ったことないよ。

「もちろん。だって、ソノちゃんはあたしのお友達でしょ」
「ともだち……うん、ともだちだな」
「そうそう。だからこれくらい、お安い御用だよ」

 ともだち。そう反芻したソノは、胸の奥の方が無性にむず痒くなった。
 だけどそれは何とも言えない心地よい感覚で。

 なんて言うんだろう。帰ったらばあちゃんに聞いてみよう。

「ところで、捕まえたいポケモンって、何タイプかな」
「んー、わかんないけど、雪山に居るから、たぶん、こおり」
「じゃあ、ほのおタイプか、いわタイプが良いね」
「……なんで?」

 不意打ちの質問に、チアは「えーっと」と前置きして、
 拾った枝で地面に絵を書き始めた。

「えっとね、タイプには、相性があってね」

 三角形の、それぞれの頂点に三つの円を書いて、例えばね、と続ける。

「『みず』は『ほのお』に強くて、
 『ほのお』は『くさ』に強くて、
 『くさ』は『みず』に強いんだ。

 かりかりと、力関係を示す矢印が付け加えられる。

「これは他のタイプにも当てはまるの」

 みず・ほのお・くさの文字が消され、別のタイプ名が書かれる。

「つまり、どのタイプにも、相性が良いのと悪いのがいるんだよ」

 どう、分かった?と顔をあげたチアが見たのは。
 頭が付いていかず、目を回しているソノだった。

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これの続きです。チア先生!
後半に続くんじゃよ(またか)


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