小説 2

鬼になりきれぬ鬼

(土方)
※『後に残るは異様な達成感』の続き




説教なんて生温い。「二度とやりません」と泣いて詫びるまで折檻してやりたかった。一つの隊をまとめる大役を持つ者が四日も音信不通だったのだ。しかも二名。
この四日間、浮かぶ青筋が消える事がなかった。煮えたぎるこの怒りを何処にぶつけようか思いながら隣を見遣ると、顔に白粉を塗った山崎が立っていた。中途半端な女装をするな、と言って殴った。後で聞いた話によると、あの時、自分の顔がこの世の物とは思えぬ程の形相だったようで、恐怖で全身の血が引いてしまっていたらしい。

仮にも鬼の副長と呼ばれている男が何故、彼等を始末書と謹慎三日ぐらいの処分で終わらせたのか――それは、証拠品だというUSBメモリーの中身を見てしまったからだ。


泣き叫ぶ子供を気絶するまで容赦なく殴りつける。普通の者ならば目を背けてしまうような惨状だが、眉一つ動かさずに見ていた。この者達にとって商品ではないのか、傷つけて良いのか、と思った。気絶した子供は研究者らしき天人に渡った。強く握手をするその下には大金が積まれてある。
人体実験に使うつもりだ――そう思った。鼠よりも実の人間を使った方が確証を得やすいだろう。売り手側の天人が「おまけがある」と言い、人を呼ぶ為に手を叩いた。使用人が持ってきたモノとは赤ん坊だった。片足を持たれ、逆さを向いた赤ん坊はだらんと両腕が力無く垂れ下がっていた。


――そこで停止した。もう十分だと思ったからだ。溜め息を吐いてUSBを取り外す。何故か差し込む前よりも重たく感じた。
なんつーもんパクってきたんだ、弧に曲がった煙草の灰が耐えきれなくなって手の平に落ちる。突如来た刺激に「あちっ!」と顔をしかめて手を振った。
正直、ここまでの事を隠していた闇市などよく見つけだしたな、と亜麻色の少年に対して感心した。しかし、機密度が高ければ高くなる程、危険度も高くなる。二人の怪我の具合から見て、どれだけ危険な目に遭っていたかなんて一目瞭然。
しかも当初、一番隊隊長たった一人で探っていたという。途中、危険極まりない行為に感づいた永倉が止めようとしたが、そのまま巻き込まれてしまったようだ。

弱肉強食――権力が全て。年を取り、社会の経験を積めば積む程、現実を知る。正義なんて存在しないのに等しい。

深い溜め息と共に紫煙を吐き出す。白いもやが広がり底冷え日和の中に消えていく。土を立たせている霜が朝陽に照らされ光っていた。
向こうの方から小柄な青年が歩いてきた。永倉だ。目が虚ろで口から魂が出ているように見える。「源さんと藤堂からダブルで叱られてた。見てたら可哀想になってきて俺からは何も言えんかったよ」と、本庁から帰ってきた近藤が苦笑しながら言っていた。
此方に気付いた彼は「おはようございます」と挨拶をし、軽く会釈をして通り過ぎていく。

「すまんな」

永倉は立ち止まり、驚いたように目を大きく見開いて振り向いた。
何故か顔に血が上ってきた。相手から物を言われる前に、頭を掻きながら逃げるようにしてその場を去った。


――その日、どの局もこぞって人身売買が摘発されたとのニュースを流していた。記者がマイクを両手に持ち、爆破された建物の前で懸命に情報を伝えている。時折、行方不明だった家族が無事に戻ってきて歓喜する者達の姿が映し出されていた。
だが、これだけの事件をたった一人の少年で解決しようとするには限界があった。中には間に合わず、すでに事切れていた者や売却済みで蒸発した者の家族が涙している映像が流れた。それらは決して少なくはなかったが、もう一人の青年が加わった事により、それ以上被害が広がらずに済んだのだろう。


子供とは何と危険で、羨ましい生き物なのか。





何が言いたいかというと、立場をわきまえず自分の信念貫く沖田君を羨ましいと思い、尚かつ、それを助けてくれた永倉君に対して感謝している土方君がツンデレだと言う話です。

細かい設定は考えていないので、突っ込まれると天を仰ぎます。
蛇足と思われていない事を祈るばかりです。


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