なんでこんな朝っぱらから、そうも美貌を振り撒けるのだ。



まだ早朝の血盟城の廊下にその姿を見つけた。
一日の始まりの、慌しさの中にある不似合いな白い姿。
周囲が忙しそうにしているだけに、彼の動きは殊更悠長に、また優雅に見えた。

毎朝、目覚めたら窓を開けてそれを見るのが好きだ。
いつだって見える景色の中にギュンターの姿があるとは限らないし、こっちに気付きもしないのだが。

けれど、今日は違っていたようで。
あ、と思った時には彼がこちらを見上げていた。はっきりと視線を合わせると、少し笑いながら、口を動かして何かを言っているのだとわかる。

「え、何?」

同じように口の動きだけでそう言うと、彼は前を向いて廊下の角を曲がり姿が見えなくなった。

何だったんだろう、一体。それにしてもびっくりした。気付かれたのは初めての事だったから。
想像外の事に心臓が落ち着かない。頭の中でさっきの何かを伝えようとしていたギュンターの姿を繰り返していると、突然扉を叩く音がする。

「はい、誰?」

返事をして、扉を開ける。
そこにいたのはさっき遠くで笑っていた彼その人だった。


「おはようございます、と言っていたんですよ」


体を少し屈ませて、私と同じ目線に合わせたギュンターが言う。
優しく細められた紫色の瞳に見つめられたまま、私も同じ言葉を返すのだった。


『おはよう』


一日の、始まり。
それ以上に何かが始まったのを、静かに感じながら。




END




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