倒れそうなほどではないし、動ける余力はあるんだけど、その余力を使って動けば動くほど疲労は蓄積していくわけで。
 
日々、何かにつけ磨耗していってるなとぼんやり思う。

リビングのドアを開け、すぐにカバンを下ろして、よろよろとラグの敷かれた床へ寝そべる。頬をくすぐる柔らかな起毛が気持ちいい。ああ、ふわふわ万歳。

だけど私はこのお気に入りのふわふわラグ以上の癒しのふわふわを知っている。


「あきちゃんおかえりい!」

「さっちゃぁん、ただいまあ」


うつ伏せで寝転がっている私の顔のすぐ横へやってきた愛する仔狐。小さな手のひらがぺちぺちと可愛らしい音を立てて頬をたたく。それを掴んでふにふにすると、くすぐったそうに笑う声が聞こえた。


「あきちゃんは疲れましたぁ〜」

「おつかれさまあきちゃん。がんばったひとには、ちゅうしてあげる!」

「そんなセリフどこで覚えてきたのよぉ、このおませさん!」


体を起こした私に、ちゅーっと小さなくちびるを突き出してきていた佐助。その隙を狙って、腕の中に閉じこめる。きゃっきゃと楽しそうにしている佐助を見ていると、私の頬も自然と緩んでくるのだ。

んもう、ちゅうさせて!とだんだんムキになってくる佐助くん。私が拒んでいるとでも思ったのかな。そんな嬉しい要望、私が拒むはずないのに。

腕の力を緩めると、チャンスとばかりに顔中へちゅうの雨が降る。いやもうこれ舐めてるよね佐助くん。ちゅうじゃないよ、舐めてるよ。

ちょっとストップ、と止めさせると、きょとん顔の佐助。あっ、ほら小さなべろが出てる…!

まあ、でもこれが彼らの愛情表現だもんなあ。ゆきくんもよくべしょべしょにしてくれるしなあ。


「ゆだんたいてき!」

「ん?お、わあ!」


ちゅうっ、と小気味良い音がしてあご下に柔らかい感触。下を見ればムッフッフ〜と満足気な仔狐くん。喜色満面とはまさにこの事だろう。

そんな佐助が可愛くないはずがなくて、またぎゅうっと抱きしめる。くふくふ鳴る鼻と一緒に揺れるふかふかのお耳が頬をかすめてくすぐったい。
安心する佐助の香りと、少し混ざる子どもの汗の匂い。今日も元気に武田荘のみんなと遊んだんだね。


「あきちゃんのにおいがするねぇ」


ほっこりした気持ちから一転、胸元から聞こえた声に少し焦る。今日はいい天気だったのでわりと汗をかいたんだった。


「ごめんね、汗くさかったね」

「?  くさくないよ?」


おれさまあきちゃんのにおいすきだもん。そう言って、うにうにと顔を胸元へ押し付ける佐助。
…うん、くさくないって言われたのは安心したんだけどね。


「でも私がイヤなのでお風呂入りまーす!はいっ、佐助くんもお風呂はいるよー!」

「あーいっ!」


元気なお返事、着替えとパジャマとアヒルさんを持って、ちゃっちゃとお風呂に入りますか!


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