今の私の表情は、漫画で言うなら目が点になってるか、顎が外れて机についているだろう。
「真田幸村と申します。これから宜しくお頼み申す」
なにを爽やかな笑顔で言っちゃってくれるんだろう、あの自称夢魔のお兄さんは。ほらあ、女子の色めき立ち具合が半端じゃないよ…!
幸村さんとの不思議な出会いをして早や数日。その数日の間に丸め込まれて何故か共同生活をしている訳なんだけど、なんせあの人(この場合「人」という表現が正しいのか分からないが)の主食はオルガズムという、つまりその、性的絶頂感というものでして。
致すまでは至ってないんだけど、毎日お腹が減る度にビリビリ腰砕けにされてみろ。疲れるなんて生易しいものじゃない。しかも、あの美丈夫に、だ。精神的にもいっぱいいっぱいなのは言うまでもない。
別に私じゃなくてもいいじゃないかと思うし、そう言ったんだけど何故かそこの所は妙にこだわりを持っているらしくて私以外食べるつもりはないみたい。
…ってうわあ、この言い方はよろしくないなあ…!
本来なら一番心休まるはずの自宅が一番心休まらない状態が続いているので学校に癒しを求めていたのに。
…いや、でもまあ、あくまでも学校では「初対面」なんだ。極力関わらないようにすればいい。
「真田くんはどの辺りに住んでるんですか〜?」
「今は愛子殿のところへ居候させていただいております」
わっしょーい。
沸き上がる悲鳴に近い驚愕の声と好奇を多分に含んだ視線が突き刺さる。
本気で私を心身共に疲労困憊にさせたいのかあなたは。
さらに先生の迷惑極まりない粋な計らいのおかげで幸村さんの席は私の隣に。休憩時間ごとに群がる女子達プラス他クラスからの見物人。
まだ怒涛の質問責めに合わないのは幸村さんへの関心が比べ物にならないくらい高いからだろう。それが少しでも落ち着いた時が何より怖い。私は「その他大勢」に分類される一般生徒なのよ…!ただ平々凡々と穏やかに過ごしたいのよ…!
「ちょっと保健室に行ってくる…」
「おっけー」
聞こえるか聞こえないかの声で言ったのにきちんと拾ってくれた友達。さすが友達。しかし気のない返答からしっかり彼女も幸村さんに夢中になっているのが分かった。さすが友達。
別に心配してくれとは言わないけどさあ。まあ私も体調が悪いから行くわけじゃないけどさあ。
なんだかなあ、と一人ごちながら教室の扉を開ける。背中が少しぴりぴりするのはきっと疲れからだろう。
保健室なんて小学生の頃からを合わせても片手で数えるくらいしかない。高校生になってからは一度も利用した事がないからどんな先生なのか知らないなあ。