何て素敵な方!人間もまだまだ捨てちゃものじゃないんだなー、なんて思ったり。成る程説明では確かに「下半身が獣」と聞いていたけど、百聞は一見にしかずとは正にこのこと。首筋から尻までにかけての美しい曲線、かといって柔らかみなど感じさせない引き締まった身体は、思わず抱きついて頬擦りして堪能したくなるほど魅力的!美食會にまさか、こんなにも好みドストライクな方がいらっしゃるなんて!ああ神様、これっぽっちも信じてなぞいないが感謝します!素敵な出逢いがこんなところにあるなんて!今すぐにでも標本にしてしまいたい…でも上司だからできない、あぁもどかしい!



「いやーそれにしても下半身が獣なんて珍しい、普通は移植するなら腕とか皮膚くらいしかやらないもんですよ。あっ下半身が獣って別にやらしい意味じゃないんですからね!」
「……」
「しかも移植したの最近なんでしょう?私新入りなんですけど、そんなドンピシャなタイミングで入ってたなんて運命ですねー!」
「運命などない。仮にあったとしても、この出会いは運命ではなく不幸だ」


なんてネガティブなお方なんでしょう。六億もいる人間の中から出会えたのだから運命に決まってるじゃないですか。お姿を眺めていると、自然に口角が緩んできちゃう……触りたいですなぁ……思わず手を伸ばすと一歩ほど後退なされた。エルグ様のいけずぅ。


「そもそも私が移植したのは五十年も前だ」
「エルグ様にとって五十年なんてちっぽけな時間でしょう?不老不死なんですから」
「貴様にとっては違うだろう」
「貴様だなんて!私のことはロッソとお呼びくださいお願いします!」
「願い下げだ」


酷すぎやしませんか、この人。ああ、いつかエルグ様のお声で私の名前を呼んでもらえたなら私はいくらでも返事をしますのに。それこそワンとかヒヒンとか、ブヒーでも構いません。エルグ様のお馬になるのもいいね、四つん這いになってエルグ様に跨がれて……あ、下半身馬だから要らないか。残念無念。ならば私が跨がりたいけど、ヘラクの背中に乗るのはどうも罰当たりな行為に思えて仕方がない。そもそもエルグ様がお許しにならないよね。








暫く雑談をしたあと、ちゃんと当初の目的である検査はしました。

検査の結果、エルグ様の細胞はヘラクの細胞とちゃんと適合していた。というかむしろ、元の姿がこうであったかのように自然なものだった。おおう……これは凄い。いや、料理長から話は聞いていたし、それを疑っていたわけじゃない。でもこうして目の当たりにすると、もう驚いたというかそういう次元じゃない。何なのこの人は。本当に最初は人間だったのかと勘ぐってしまうじゃない。今まで何百もの移植をしてきたけど、ここまで自然かつ能力をフル活用できているものを見るのは初めてだ。


「………何かもう、ここまで完璧だと感動しちゃいます」
「もう終わりか?なら帰るぞ」
「あ、はいどうぞー。またいらしてくださいね」
「ほざけ。二度と貴様に会うつもりなどない」
「えー!?そんなっつれないこと言わないでくださいよー。私エルグ様のお体に興味ビンビンなんですから!」
「死ね」
「あっ違います違います、私事ではないです」


あらら、これは盛大に誤解してらっしゃる。このままでは変態のレッテルを貼られてしまう。理解していらっしゃらないエルグ様のために、説明しなくては。ごほんと一つ、咳払い。


「ご存知でしょうけど、普通に人間界にいる獣の細胞を移植しても、移植後直ぐに、又は何年後かに突然拒絶反応が出たり悪影響を及ぼしたりするケースがあるんです。今の技術ではまだ完璧な移植方法は見つかっていません。それなのにエルグ様は只でさえ特殊なグルメ界の、それも更に特別な存在である不死身と言われているヘラクの細胞と完全に馴染んでおられる。これはもう研究するしかないではありませんかっ!これを追究すれば確実な移植が可能になるかもしれません!!」


いくら細胞がうまく適合していようが元は別の生物、いつ異変が起こるかというリスクは当然ある。エルグ様を調べて細胞の条件を知ることができれば、他にもヘラクの細胞を移植できる人物を探すことができるし、あとは応用すれば他の生物にも使えるようになるはずだ。これは研究員魂が疼きますなぁ!


「…つまり何だ」
「つまり、エルグ様のお体を是非、研究させていただきたいのです。あと、できれば実験もさせていただきたいなーなんて思ったり」


エルグ様、というより上司でなかったら実験動物として手元に置いておきたいくらいの逸材。好きなように弄くれないのが本当に悔やまれる。周りに置いてある彼等のようにホルマリン漬けにして飾りたいなぁ…。
実験という単語を聞かされても、エルグ様は動揺してない。少し思考していらっしゃる模様。やはり第一支部長だから、そのくらいどうってことないのかしら?まぁ不死身だから命の危険はないわけだけども。


「……頻度はどのくらいだ」
「週に一度来てくださ痛っ!あいたたたたたた!!」
「寝ぼけるのも大概にしろ」
「あ、あー分かりました。では月一でどうですかっ?」
「………………………チッ」


盛大な沈黙の後、盛大な舌打ちを残して去っていく愛しいお尻。そして可愛らしく揺れる尻尾。ああ、まだ共にいたかった……愛できれてないというのに、不覚。


未来は黄金に輝く



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