12日目


「…あともう少しなのね」

「ああ。食材は探し終わったから、後は捕まえるだけだ」

「う〜…そしたらもう、本当にあちしのとこに来なくなるのね、ゼブラちゃん…。あ、送られてくる指名手配犯たち、殆ど半殺しだったんだけど。頼むから穏便に捕まえなさい」

「気が向いたらな」


珍しくゼブラさんが自分で報告している。それが私のことを考慮しての行動なんだろう。いつもそうしてくれたらいいのに…。ラブ所長も、普段以上にゼブラさんとお話出来て嬉しそうだ。そんな光景を、普通なら微笑ましく見るんだけど、今は周りのことにいちいち反応するのが億劫だ。ハニープリズンに来るまでに、更に悪化したんだろうか。喋ることすらままならない。そんな私に気付いてか、ラブ所長が声をかけてくれた。


「うるうちゃん、随分具合が悪そうなんだけど大丈夫なの?仕事熱心なのは分かるけど、無理は厳禁よ」

「……はい、分かってます」

「…もう今日はさっさと帰んなさい」


今度体調が回復したら来なさい。
そう言われたら帰るしかない。ゼブラさんと一緒に部屋を退出した。


退出した後はひたすら無言。ゼブラさんが私に話しかけるのは、体調が回復した私が何度も謝った後だろう。それまでは、きっと何も言わない。それがとても悲しい。私はゼブラさんを怒らせたんじゃない。落ち込ませたんだ。ゼブラさんの善意を、私は酷い言葉で拒絶した。ゼブラさんを、私は傷付けたんだ。その事が、私の胸に重くのし掛かる
牢獄の前を通る。ゼブラさんは(良い意味よりは悪い意味で)有名だから、囚人たちが畏怖の目で見ている。それを少しだけ見て、前にいるゼブラさんの後を追うと、ある囚人の話し声がやけに鮮明に聞き取れた。


「あいつ確か、四天王代理のうるうとかいう奴じゃねーか?」




どくりと心臓が跳ねた。



脳も喉も足も指先も鼓膜も、心臓の動きだけを感じている。ドクドクと脈打つ音しか聴こえない。直に感じているようで気持ち悪い。辛うじて眼球だけは機能しているけど、それすらもフィルターを通して見ているように感じる。視界が左右にぶれる、歪む。あれ、私は今さっき、ゼブラさんの後ろを歩いていたのに。自分がどうしているのかも分からない。今、私は何をしているんだろうか。


誰か、誰か誰かねぇ助けて。

何かを探すように動かしていた手を、掴まれた。その感触だけを確認して私は倒れた。