惹こうとして、惹かれてる
 ふと背後に視線を感じた。知っていながら、体は卓に向けたまま。さあ、なまえはなんて言うのだろう。暫し置く。ところが頬杖をついて待てども、一向に声がかからない。彼女の性格を察した喜助は、渋々口を開けた。

「そんなに見つめられたら、背中に穴が空いちゃいますよ」

 言いつつも、自分から振り向きはしない。

「……いやだって浦原さん、それ、」
「はい、なにか」

 返した言葉以上に口元が緩む。ああ愉快だ。

「えっと、ご自分で?」

 彼女らしい問いにようやく振り返る。

「ええ、あなたとお揃いです。どうでしょ」

 後ろ髪を一つに結ったなまえは、目のやり場に困っていたようだった。首回りがすっきりしていると、すうすうとして。心持ちもいつもより晴れやかに感じる。非日常で新鮮、他に何と言えようか。

「お、お似合いですけど、ビックリっていうか」

 挙動不審な声に思わず喉が鳴りそうになった。
 だが恐らくなまえは揶揄われているだとか、冗談だとか、その程度でしか受け止めていないのだろう。口に出さないものは思いの外、伝わりにくいらしい。

 ──少しでもあなたの気を惹きたいからですよ。


prev back next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -