これの続き
※男同士 夫婦設定

愛ある喧嘩です、多分


 今日は本当に疲れた。
 珍しく(というのも可笑しな話だが)真面目に仕事をこなし、溜まりに溜まった山積みの書類を一通り片付けた。
 肩は凝っているし目の奥がジンジンする。
 正に疲労困憊と言った状態で帰宅し、足早にリビングへと急ぐ。
 今日こそお帰りのキスして貰うんだ!正チャン辺りに聞かれたら「懲りないですね」とか言われそう。変なモノを見る目で。

「ただいまー」

 おかえりなさい、と言う言葉は聞こえてこなかった。因みに骸の姿も、娘であるクロームの姿も見えない。
 変わりに目に入ったのは、キッチンの机の上に置いてある、ラップがかけられた夕御飯のおかずと置き手紙だった。
『綱吉君の家に行って来ます。』
 ただ一言書かれたその紙を見て、思わず泣きたくなった。

「え、ちょ……まじ?」

 またか、と思いつつも腹は減っているので、仕方なくラップのかかったおかずを電子レンジで温める。温めが終わった事を知らせる電子音が更に虚しさを強調させる気がした。
 最後に一緒に食事をしたのは一体何時だったか。最近まともに家族全員そろって食事をしていないな、などと思い起こす。
 先週は雲雀チャンの家、その前は獄寺クンとか言ったか。
 何かと理由をつけて家にいないことが多くなっているように思う。て言うか避けられてる?もしかして離婚の危機、みたいな。
 しかもそのほとんどが(と言うか全員が)ボンゴレ関係者だ。ボンゴレはライバル会社だって説明したはずなんだけどな。
 わざとか。わざとなのか。もしこれが骸の計算だったならとんだ鬼畜プレイだ。
 仕事から帰ってきたら家には誰もいなくて、その理由が他の男の家に遊びに行っているからだなんて、今自分が置かれている状況はなんて惨めなんだ。

「今なら泣いても文句は言われないよね」
「止めてくださいよ気持ち悪い」

 突然後ろからかけられた言葉に驚きながら、聞き間違えるはずの無い声に振り向いた。

「骸クン!」
「ただいま帰りました」
「ただいま……」
「……おかえり」

 綱吉の家から帰ってきたのだろう、そこには骸とクロームが立っていた。何故か大きな紙袋を持って。

「綱吉君がお菓子を沢山くれたんです。なにか食べますか?」
「あ、じゃあマシマロ……じゃなくて!」

 危うく流されそうになった所だった。夫として夫婦とはどうあるべきかを教えてあげなければならない。

「骸クンさあ、最近綱吉クンと随分仲がいいみたいじゃん」
「ええ、それが何か?」
「僕たち夫婦だよね? 他の男の家にいくとかさ、ちょっと自覚が足りないんじゃないの?」
「綱吉君とはそんなんじゃありませんよ」
「でもさ、僕が帰ってきて家に居ないなんてあんまりじゃない?」
「……あなたは『正チャン』と仲良くしてればいいじゃないですか」
「…………は?」

 思わぬ発言に素っ頓狂な声が出た。――骸クン今なんて言った?
 骸は如何にも不機嫌ですといった表情を隠さず、手に持っていた紙袋を机の上に置いた。

「クローム、部屋に戻っていなさい」
「分かりました」

 表情とは裏腹に穏やかな声で言い、クロームが自室に戻っていくのを確認してから、再度白蘭に顔を向けた。
 何となく雲行きが怪しくなってきた。これは久々に家が半壊するかもしれない。

「正チャンとって、どういうこと?」
「そのままの意味です」
「あのさ、正チャンって男なんだけど。女と勘違いしてない?」
「男……」
「そうそう! だから骸クンが心配する事は何もないよ!」
「性別は関係ないですよ。現に僕らも同性でしょう。僕というものがありながら毎日毎日他の男の話をされるのは気分が悪いんですよ」
「嫉妬してるの?」
「自惚れるのも大概にしろ」

 まるでクズを見るような冷たい目で睨まれる。
 ゆっくりとした足取りでキッチンに向かった骸クンは、銀色に輝く包丁を取り出して不敵に笑った。
 ……え、包丁?

「ちょ、骸クンそれは危ない! シャレにならないから!」
「はっ! せいぜい反省するんです、ねっ!」
「うわっ」

 有り得ないスピードで飛んできた包丁は寸分狂わず、自分が立っていた場所の真裏の壁に突き刺さった。

「チッ」
「舌打ち!?」

 2本の包丁を取り出す姿を見て、ああ、本当に死ぬかもしれないと思った。

「大人しく刺されて下さい」
「嫌だよ! 僕は骸クンが一番好きだから、だから機嫌直して!」

 一瞬、骸の動きが止まった。包丁を振り上げた状態でのフリーズはなかなかに恐怖感を煽るが。
 白蘭は一つ困ったようなため息を吐き、骸との距離を詰める。

「骸クンが嫌なら、もう正チャンの話はしないよ」
「…………」
「ごめんね」
「…………」
「だからさ、取り敢えず包丁置こうよ」

 なるべく優しく、穏やかな口調でそう促せば、骸は素直に持っていた凶器を置いた。

「嫉妬してくれたの?」
「……違います」
「ま、そう言う事にしておいてあげるよ」

 断固として認めない骸クンに少しの不満を感じながらも、段々と柔らかくなってきた表情に安堵する。
 ゆっくりと引き寄せれば、大人しく腕の中に収まった。

「ねえ骸クン、キスしたい」
「調子に乗るな。刺しますよ」
「ごめんなさい」

 骸クンは嘘をつかないので取り敢えず全力で謝っておいた。
 最近の悩みは本当に夫婦なのか分からなくなる事です。


(2011/05/09)



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